情なのかな

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私は泰幸君のその言葉に体中がゾッとした。二人の未来なんてそんなのもう存在しない。貴方がこんな状況を作り出しさえしなければそうはならなかったのかもしれないのに。別荘に行って何を話すと言うのだろう。また貴方の泣き落としに付き合わされなくてはならないの?ご家族の事を思うと確かに胸は痛むけれど私は貴方の家族を救う為に結婚する訳じゃ無い。私は私の人生を歩むんだからっ。   「今頃どうしてるかな。」 「な、何が?」 「何がじゃ無くて、あのボディガード。」 「っ。」 「まさか俺に帰り際話しに行くだけでこんな事になるなんて向こうも思ってないだろうし誤算だったはず。俺的には上手く巻けたと思ってるけど。仮に今スマホのGPSで追い掛けて来ていたとしてもそんなに直ぐに追い付けやしないし次のサービスエリアでゴミ箱に捨ててもらうから構わない。高嶺の返事次第で引き返そうかとも思っていたからあえてスマホは奪わなかった。けどそんな感じ全然無さそうだから気が変わった。これは悪まで二人の将来の話し合いなんだ。だからあの人に連絡するなと言った。話の邪魔になりそうだったから。それに…高嶺は自ら俺の車に乗ったんだよな?」 うっすらと笑みを浮かべ私をチラリと見る。 私の馬鹿っ。何であの時礼二に一言伝えてから行かなかったのよ。それに確かに私は自分の意思で車に乗り込んだ。全面的に泰幸君を 責められ無い。   今更後悔しても仕方の無い事を思い頭の中で自分に罵倒する。 お願い。どうか礼二にこの会話が届いていて。私にはもうそれしか手段が無かった。 パーキングエリアの看板が目に入ってきて二人の乗った車はそこに停車した。エンジンを切るなり泰幸君は言った。 「今からあそこの自販機の前のゴミ箱に一緒に行ってスマホを捨てる。その後御手洗に寄り出発。分かってると思うけど変に騒いだりしたら俺…。」 「わ、分かってる。」 そんな顔で見られたらそうせざるを得なかった。私は泰幸君の狂気に満ちた雰囲気に支配されていく。 バタンと車の扉を閉めて泰幸君は私の横をピタリとマークする様に歩き出した。そしてゴミ箱の前迄来ると鞄からスマホを取り出して私は仕方が無く言われた通りにスマホを手放した。そして御手洗を済ませると再び車に乗り込み出発したのだった。 ─────────。 クソっ、、捨てさせやがった。でもこっちだって構わない。通話が繋がっていた事を泰幸は気がついていないはずだからな。まさか別荘に俺が来られるなんて予想もしていないだろう。けどパーキングエリアに停車したお陰で雅達との距離はかなり縮まった。 「運転手さん、出せるだけスピード出して下さいっ!」 「はっ、はいっ。」 俺は後部座席から身を乗り出して叫ぶ。 「後どれ位で着きますか!?」  「あ、後…三十分もすれば着くかと、、」 「急いでくれもっと!頼むっ!」 この先二人の会話が聞けず状況も分からないままで不安だが仕方が無い。とりあえず泰幸は運転中で下手に手出しはしてこないだろう。 俺は祈るしか無かった。   ──────────。 スマホを手放した私は絶望感に満ちていた。窓から流れ行く景色を無表情にただ見つめながら礼二が来てくれる事も考えられ無くなっていた。けどスマホを捨てる様に言われ結婚すると言わない限り帰してくれないなんてこんな身勝手な行動は警察が動いてもおかしくない事態だ。途中から泰幸君の人格が豹変し脅迫まがいな事を言われスマホという通信機器も捨てさせて。これは立派な誘拐だと私はそう認識していった。そしてもし礼二や警察が助けに来てくれたとしてもその時、泰幸君は逮捕されてしまうだろう…。 横目で運転中の泰幸君を見る。 『高嶺!─────』 高校の頃の何の屈託の無い泰幸君の爽やかな笑顔が脳裏に浮かぶ。 ズンと胸が苦しくなった。 ────────────。
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