情なのかな

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泰幸君の方に顔を恐る恐る向けた視線のその先にピカッと光る物が目に入った。窓の外に見えるそれに背中を向けている泰幸君は気が付いていない。 「高嶺?」  「う…うん。お父さん体調は今はどうなの?」 「精神的なものとあと病気も見つかって入退院の繰り返しだよ。付き添いの母さんも何時倒れるか分からない…。」 ガタガタッ、、 「…っ?!」 私はと共に真横に居る泰幸君を抱き締める。 「泰幸君がお父さんを心から心配し大切にしようという気持ちはこの世界で誰よりも強くてそして誰より偉大だと思った。私はそんな泰幸君の家庭事情も知らず今まで実家暮らしで親が敷いたレールをただ歩いて来ただけだった。泰幸君に比べたら甘ちゃんで本当頭が上がらない。自分が情けない。」 「高嶺…。」 「大変な就活だって親がホテル経営してるからってそのコネで入ったも同然だし。私は結局親のスネをかじる大したこと無い人間で大したこと無い人生を送って来たの。自分の力じゃ何も出来やしないのよ。泰幸君の方がよっぽど価値があって素敵な人。だから、だからね、そんなに悲観的にならないで。お願いだから…。」 更にギュッと自分の胸に泰幸君を受け止める。 泰幸君の手が私の背中に回った。 そして私は窓に向かって。 『た・す・け・て』 そう口で合図した。    バリッ、バリンッッ────────!!! 窓ガラスは惜しげも無く割れ次の瞬間礼二が勢いをつけて中へ飛び込んで来た。その音に反応し私から体を離した泰幸君はガバッと胸ぐらを掴まれソファから引きずり下ろされると泰幸君の上に馬乗りになり顔面目がけて拳を振り下ろす。続け様にガッッと鈍い音がしてふと礼二の表情を見れば初めて見せる狂気に満ちた礼二の顔があった。礼二と泰幸君が重なる。 礼二…もういいから止めて。       泰幸君と同じになっちゃう。 「礼二っ!!」 私は大声でそう叫んでいた。すると私の声でストップが掛かり振り上げた拳がピタリと止まった。 「はぁ…はぁ…はぁ…、雅、怪我は?」 私の方に顔を向けてくれた礼二は力が抜けゆっくりと何時もの表情に戻っていく。同時に振り上げた拳もストンと下に落ちていった。 「大丈夫。何もされて無いよ。」 「そうか、なら安心した。けどこいつ頭完全にいかれてるなっ。おいっ、聞こえるか?お前の事言ってんだよ。このヘタレが。」 「何で、こ、ここが分かったんだ?スマホは捨てたはず。」 泰幸君が礼二に馬乗りにされたまま口を開く。 「そんなもん無くたってとっくに分かってたんだよこっちは。」 「とっくに分かってたってどうして…。」 「お前が雅に捨てさせたそのスマホだよ。」 「スマホのGPSはパーキングで途絶えたはず…。」 「繋がってたんだよずっとな。会話まる聞こえ。おかげでここも分かっちゃいましたっていう具合だ。」 「ずっと!?」 「運がお前に味方しなかったんだな。詰めが甘いんだよ、この若僧がっ!!」 「高嶺…俺を騙してたんだな。あんな同情する様な真似して抱き締めて。」 「はい~っ?泰幸さん。車で連れ回しスマホを捨てさせ家に監禁。こんな三つも素晴らしい罪重ねておいて一体どの口が言ってんですかね。騙す?は?てめぇ何偉そうにほざいてんだよ。悪いがこの件に関しては一つもお前が救われる余地はねぇんだよっ。」    礼二が物凄い圧で見下しながら泰幸君にそう言い放つ。 「雅。こいつ今から警察突き出すぞ。」 礼二はジャケットの胸ポケットからスマホを取り出した。
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