情なのかな

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良かった。やっぱり電話は繋がっていたんだ。そう安堵した私はソファの背もたれに雪崩れ込む。 礼二はスマホの電源を入れ画面に指を触れようとしたその時口元から血を流し涙を流す泰幸君の顔が目に入った。眉毛は下がり天井を見つめるその瞳は優しいあの泰幸君に違いなかった。      「…ちょっと待って礼二。」 私の声に手を止める。 「どうした?」 「私、何もされてないの。しかも泰幸君の車に自分から乗り込んだんだ。」 「騙されてたんだよそもそもそこから。」 「私も悪いの。」 「悪くねぇだろうが。脅迫まがいな事を言われたの忘れてねぇよな?」 「そ、そうだけど…。」 「こんな事されてお前にまだ情が残ってるのが俺には到底信じられ無い。だがこの件は黙って見過ごせない。お前が良くても未来ある高嶺グループにとって今後またこいつが何をしでかすか分からねぇからな。」 「…。」 何も言えず俯く私。 そうなんだ。私は何処の家に産まれ何処の家の娘かという事を素っ飛ばし自分の感情だけで口走っていたのは事実でついこの間私は私である存在をもっと自覚しなければならないと思っていたばかりなのに。こんな時でさえ、こんな時だからこそ礼二の言うとおり高嶺の家を背負っていると思わなくてはならないんだ。 「雅。これはお前の頼みでも聞けない。」 礼二はそう言って警察に通報をした。 ──────────。 「ずっと貴方の存在が邪魔で仕方が無かった。」 そう口を開いた泰幸君の声は穏やかで顔もすっかり何時もの泰幸君に戻っていた。 「はは。だろうな。分かってたけどな。」 「高嶺。こんな事件起こして本当に申し訳なかった。俺多分、父さんの事で頭一杯になって冷静に周りを見られて無かったしそんな自分が自分じゃ無い気もしてた。なんか変な感覚?だった。けどこの人に殴られて少しずつ目が覚めてきた。俺何やってんだろうって。」 まだ床に倒されたままで泰幸君は下から礼二を見上げる。 「別人格が生まれかけたんだねきっと。自分でそんな風に感じるうちはまだ大丈夫なのかな。」 「ま、だからと言ってこの件が無いものになんて絶対無らねぇからな。」 「分かってます。」 「ん?来たぞ。」 遠くでサイレンの音が聞こえてくる。 「礼二さん。確かに貴方の事は良く思ってはいなかった。だけど貴方が居なければ俺みたいな変な輩から高嶺を守れない。だから貴方は高嶺の側に居てやって下さい。」 「居てやって下さいとは随分とまた上から目線だな。お前に言われなくてもそれは俺の仕事。あたり前の事だ。」 「そうでしたね…あ、そうだ。最後に高嶺に伝えたい事がある。」 泰幸君は顔を私の方へ向けて。 「信じてもらえ無いかもしれないけど初めて出会った瞬間、俺はきちんと高嶺に恋を覚えた。それだけは本当なんだ。最後はこんな結末になるなんて最低な俺だったけどその時の気持ちに嘘は無い。」 「泰幸君…。」 すると玄関の方から音がしてきてバタバタと警察官がリビングに入って来た。礼二から事情を聞き泰幸君は身柄を確保された。体格の良い警察官が二人泰幸君を連行しリビングを出ようとした時、心にあった淡い思い出がいつの間にか私の口を伝って…。 「私も、、泰幸君が好きだったよ。」 背中で聞いた泰幸君はほんの僅かこちらに顔を向け行ってしまった。 ────────。 「…っ、ふぅっ、、ぐすん。」 私は泣いていた。 解放されて安堵した気持ちとそして。 私に恋をしてくれた私の好きだった人との別れに…。
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