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泰幸君が去ったこのリビングで暫く私は涙が止まらずただただ泣いていた。
「うっ…ぐすっ、ぐすん…。」
ウ~ウ~ゥ~…。
窓際で泰幸君を乗せたパトカーを見届けていた礼二。
「…行ったぞ。」
「うっ…ん。ぐすっ。」
「もう泣くなよ。俺だって我慢してるんだからな。」
「え?礼二が…?」
「いや、何でも無い。」
「どうして?今我慢してるって。」
「あぁ、体動かしたから腹減ってんだよ。飯食いたいの我慢してるだけだ。」
後ろに立つ礼二の顔を振り返り覗き込む様に見る。
「嘘っぽい。」
「嘘じゃねぇよ。」
「目が泳いでるよ。あと口もモゴモゴしてる。」
「してねぇってばっ。いい加減にしろよ。大体お前はなっ…!?」
ガタっとソファに膝を付き後ろに居る礼二にしがみついた。
「なっ、何だよ突然っ!?」
腰回りに纏わり付いた私に向かってあたふたしている。
「教えて礼二。泣くの我慢してたんでしょ?」
私は礼二を見上げる。
「…安心したから。」
礼二はボソッと呟いた。
「そういう事だったの。へ~案外礼二も情に流されやすいタイプだったんだ。」
「お前が俺の前で何時も通りこうして話していて…ホッとして…」
「な~んだ。普通の人と同じ感情持ってたんじゃない礼二。何時ものあの意地悪な態度の裏に。」
すると礼二は腰に巻き付いていた私の両腕を離し私を抱き上げる様にして抱き締めた。
「またこうしてお前に触れられ無くなっていたら俺も責任をとって死ぬつもりでいた。」
「っ。」
「いいか。お前がどんな状況でどこに居たとしても必ず見つけ出して助けてやる。だから最後迄諦めずに信じてろ。」
「信じるよ。もうずっと前から信じてる。」
「ん?震え止まったな。」
「ばれてた?はは…。」
礼二はゆっくりと体を離し床に散らばる窓ガラスの破片を革靴でカチャッと踏み付けながら私の隣に座る。そしてもう一度私を自分の胸に収めた。
「死ぬなんてそんな事もう二度と口にしないで。礼二のお父さん悲しむでしょ。」
「それ位に相当するからなお前の存在は。高嶺家にとって。それにそうでもしなければきっと俺は生きている存在意義を失う。」
「そんな大袈裟な、、」
そう言うとギュッと力を入れて更に私をしっかりと抱き留める。
「もう少しでも側を離れるなよ…雅。」
うん…と胸の中で返事をしコクリと頷いた。
「今更また…ってえ。」
礼二がボソリと。
「えっ、大丈夫礼二っ!?」
「よく分かんねぇ。」
「私が無理させちゃったからだよね、ごめん…。もし今度あんな事があったら私が礼二を庇える様に鍛えるわ。」
「結局お前に庇ってもらったとしても俺は負傷する羽目になりそうだな。時間の無駄だ。止めとけ。」
「ちょっと、酷くない?」
「すまん。本音がポロリと。」
ニヤリと笑い私をからかう礼二。だけど何時もよりも優しく緩んだ目元に胸が騒いだ。
ポンと私の頭に手を置いたかと思うと胸ポケットに手を入れ煙草に火をつけ煙を吐き出す。
「離れないよ。絶対に。」
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