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下からはキッチンで礼二が何やら支度をし始めている音が聞こえてきた。全く家の中迄あれこれ監視されたんじゃストレス溜まるってのよ。でも夕飯作るって礼二料理作れるのかな。確か一人暮らしよね礼二って。見た感じ料理するタイプには見えないけど。え?もしや意外に彼女とかに作ってあげちゃうタイプだったりして。そう言えば礼二って彼女居るのかな。長い間側に居るけど私って礼二の事何も知らないや。自分の事一切話さないからな。礼二が付き合う彼女はきっと私みたいに反抗なんてしない大人しい女性なんだろうななんて想像してみたりする。髪の毛なんかもカールがかってフワフワでニコリと笑うと花が咲いたように可愛いそんな女性。
泰幸君もそんな女性が好きなのかな…。
「おいっ、飯出来たぞ。下りてこい。」
30分もしない内に無愛想な声で礼二が下から声を上げる。
「今行くわよ。(おいっ、じゃないわよ。)」
ムスッとした顔で部屋を出てリビングへ向かうと…うわぁ。
「早く座れ。」
ダイニングテーブルいっぱいに広がる数々の料理に目を奪われた。けど私は信じられなくて。
「これ、デパ地下とかで買って来たのをただお皿に並べただけなんでしょっ。」
ついそんな事を口走ってしまっていた。
「はぁ?買って来た物を並べただけで30分も時間かからないだろ。何言ってんだ。」
「こんな料理礼二が作ったなんて思えないもんだって。」
「ちょっと来い。」
「キャッ!?」
グイッと腕を掴まれキッチンに引き込まれる。離した手で私の顎を掴み上げる様にして持ち上げそれと同時に口を少し開げた礼二の顔が私に近づいてきた。礼二の目は私の唇を見つめ私は困惑し訳が分からないまま目を閉じ覚悟を決める。
…。
「目は閉じなくて良い。口を開けろ馬鹿。」
そう言うとコンロのまだ湯気の立ち上るフライパンから余っていた鳥の照り焼きを一切れ指でつまむ。フゥ~と息を吹き掛け冷ましたそれを私の口へ放り込む。
「ご覧の通りしっかりフライパンで作ってるだろうがこうして。味だって自信はある。」
私はモゴモゴした口で頷く。
「ふっ、ふふ。」
「何よ。」
「いや~。さっき何で目閉じてんだろうな~って。ふっ。」
「違っ、あ、あれはその、、うるさいわね、もうっ。」
「はいはい。言いつけ通りもう話し掛けません。失礼致しました。雅お嬢様~。」
私をからかう礼二はそう言ってカトラリーと取り皿を手にし席に座った。私も後に続き席に座る。
「食え。」
「いただきます。」
箸を持ち並べられた料理を見渡しどれから手を付けようかと迷ってしまっていた。ミックスビーンズのサラダに鱈のムニエル、キノコの野菜炒め、そしてさっき強制的に食べさせられた鳥の照り焼きが金色のラインの入った白いお皿に綺麗にのせられている。
「手際良いんだね。短時間でこんなに作れるなんて。」
「一人暮らし長いからな。」
「それに悔しいけど美味しい。こんな料理出されたら女性は喜んじゃうよね。」
「褒めるな。気持ち悪ぃ。」
「気持ち悪いってそんな。事実を言っただけなのに。素直に喜びなさいよ。」
「そりゃどうも。」
「ったく…。ねぇ。礼二って彼女とか居ないの?」
それとなく聞いてみる。
「珍しい質問だな。」
「そう言えば礼二の事私あんまり知らないなって思ってさ。」
「知らないままで良いだろ。」
「どうして?」
「お前を護るだけなのに俺のプライベートなんかお前が知る必要は無いだろ。」
「必要あるよ。だって…。」
「だって…何だよ。」
だって…の後に続く言葉が胸の中で上手く纏まらずに口に出来ないでいた。だけどそれは礼二を今よりも深く知りたいと思った気持ちがあってこそのものだった。
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