事件のその後…

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事件のその後…

数週間後。 高嶺家のリビング。 私の両親と礼二の四人がダイニングテーブルを囲み座っている。 お手伝いの斉木さんがコーヒーをそれぞれの前に用意してくれて私達は先日の事件の話をしていた。 「この間から言ってるけど本当に雅が無事で良かったわ。礼二君から連絡もらったあの日のお母さん床にへたり込んで暫く立ち上がれなかったんだから。」 「もうそれ確かに何回も聞いた。」 「お母さんはそんな感じだし役に立たないといけないのにお父さんも頭真っ白になって何も出来なくて本当情けない。ただ礼二君が護ってくれて良かったとそればかりを思っていたよ。」 「お母さんの側にお父さんが居てくれただけで十分でしょ。ね?お母さん。」 「えぇ、そうよ。お父さんの存在が私の癒しなんだから。」 「仲良いよねやっぱり。」 「あたり前でしょ。お母さんお父さん以外考えられませんから。ふふ。」 少し照れながらコーヒーを口にするお父さん。 「礼二君も前回の事件からまだ日が浅い時だったって言うのに沢山迷惑かけてしまったわね。」 「仕事ですから。構わないで下さい。」 「まぁね、そうなんだけど。でも雅を無傷で護ってくれて本当に感謝しているの。それに早急に解決出来た訳だし。」 「いえ。早急な解決に導いてくれたのは私一人の力だけでは無理でした。あの日車に乗った雅様は相手に気付かれない様にスマホを繋げていて下さったお陰で解決の糸口を探し出す事が出来たんです。今回は雅様に逆に救われました。」 「やっ、やだな。そんな褒めないでよ。」 私もお父さんの真似をしてコーヒーを手に取る。 「そうだったわね。とにかく二人共無事で何よりだわ。雅は体調はどう?その…気持ちの面でって意味で。」 「あぁ、うん。あれから毎日色々と考えたり思ったりしたけど最後泰幸君が自分を取り戻してくれた事が私にとって唯一の救いだったと思う。けどあんなに優しくて良い人が大切な人を思うがあまり自分を見失い破滅の道を辿る事になるなんて…誰にでも起こりうるんだという恐ろしさを覚えた。」 「大切な人の存在は本当に自分が思うよりも大きいものなのよね。自分よりも大切な雅だからこそお母さんはあの時何度も身代わりになれるもならば私がってそう思ったわ。」    「ありがとう。泰幸君は結果的にはああいう形になってしまったけど家族への愛情は私なんかよりもずっとずっと深いんだよね。」     「そうね。」 「そうだな。」 お父さんもお母さんと口を揃えて頷く。 「私は泰幸君に向き合ったしもう済んだ事になっているから大丈夫よ。来週から仕事にも行くわ。」 「そうなのね。分かったわ。」 そう言うとお母さんも安堵の表情を浮かべコーヒーを口にし思い出したかの様に直ぐに口を開いた。    「ねぇ、雅。」 「ん?」 「転勤の話なんだけど。」    「はっ、すっかり頭から抜けてた。」 「それもそうよね。あんな事があったものね。」 「それで何時から働くの?私。」 「実はねお父さんとも話してわざわざ雅を地方へ行かせ無くても良いんじゃ無いかなって思ったの。事件がきっかけでそう思う様になったのよ。」 「大丈夫だよ。だって礼二が居るし。」 「そうなんだけどね。普段から仕事でお母さんもお父さんも家を空けてばかりだし雅の近くに居るようで居てあげられないもどかしさはあるけど、でも一緒に住んでいる訳で顔を合わせる機会もそれなりにあるし。だから雅が側に居なくなったら凄く寂しくて心配だなって思ったの。」 「嬉しいよ。そんな風に言ってくれて。だけど私やってみたい。新しい環境で頑張ってみたいの。駄目かな?」 お父さんもお母さんも顔を合わせると眉毛を下げこちらに向き直る。 「雅の決意は固そうね。そう。分かったわ。じゃあ詳しく話を詰めておく事にするわね。」 「ありがとう。」 「と、いう事だから礼二君も引き続き雅をよろしくお願いします。」 「はい。かしこまりました。」 「お母さんお父さん。心配してくれてありがとう。もっと成長出来る様に頑張って来ます。」 こうして事件の後の私と高嶺家は新たな生活と出発をする事になったのだった。
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