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「え?ちょっと礼二、もうトラック止まってるけど。」
タクシーの窓から見えた一台のトラックに目が留まる。
「あぁ?早かったな。とりあえず降りるぞ。」
「うん。」
礼二が会計を済ませると私達はタクシーを降りた。そしてトラックの横に立っている背中に会社のロゴマークが入った男性に近付く。
「あの、すみません。高嶺ですが。お早い到着だったんですか?」
引っ越し業者さんが二人で何やら話し込んでいる間に割って入る様に声を掛けた。
「あっ、高嶺様ですか?良かった。今丁度荷物の話をしていて。」
「そうだったんですね。今鍵空けますから運び込んじゃって下さい。」
「はい、高嶺様の荷物は運び込めそうなんですがご一緒にご依頼頂いたそのお隣の202号室の菊田様の荷物はどうしますか?」
「え?どういう事ですか?」
一瞬意味が分からず聞き返す。
「先程高嶺様と菊田様に挨拶をと玄関の前に行ったのですが菊田様の玄関が開いており中から内装業者さんが出て来て作業してらっしゃって。話を聞けばまだ数週間は掛かるとの事でして。」
「内装業者さんですか?礼二聞いてた?」
「聞いてない。奥様に電話して確認する。すみませんが少し待っていてもらっても大丈夫ですか?」
「はい。構わないですよ。」
きっと何かの間違えだとそんな風に思っていた私だったけど電話を切った礼二の表情からはそんな望みは消えて無くなった。そして口を開いた礼二の口から出た言葉にあ然とする。
「事情が把握出来ましたので菊田の荷物は全て高嶺の部屋へ一旦運び入れて下さい。」
「いやっ、ちょっと礼二、、」
「俺の部屋の壁や水回りが大分痛んでいたのを聞いた奥様は業者に依頼したが自分自身が多忙だった為にすっかりその事が抜け落ち最後伝え忘れたらしい。だから作業が終了する迄の間ワンルームで同居だな。あはは。お前部屋散らかすなよ。」
「無理っ、無理だから。」
「は?何でだよ。一緒に居たじゃねぇかあの時。」
「あれはだって私は二階で礼二は下の階で寝てて部屋は別々だったじゃない。でもこの家はアパートでしかもワンルームなのよ、分かってる?」
「分かってるが?それが何だよ。」
「分かってるんならちょっと位察しなさいよねっ、、」
「はぁ?それは気をつかえと言ってるのか?」
「そうよ。」
「ならその言葉そっくりそのままお返ししてやるよ。俺は常に綺麗に整理整頓されている部屋を好むタイプだ。お前の部屋みたく散らかり放題の中で暮らすなんてごめんだね。精々汚さす綺麗な部屋を保つ努力をしてくれよな。雅お嬢様。」
「そうじゃ無くて、礼二だけ他のアパート借りるとかそういう事を言いたいのよ私は。」
「今からか?引っ越し業者さんが目の前で荷物運ぼうとしてるのにか?無茶な話だな。」
「なっ、なら近日中に探すとかしてよ。」
「そんな事してる間に内装終わってるだろうが。例え直ぐに部屋が見つかったとしてもまたどうせ荷物運ぶんだから面倒くせぇよ。」
「だって…、、あぁ、もう、分かったわよ。一緒に暮らせば良いんでしょっ!暫くの間。」
「そういう事だ。やっと納得したか。」
と、そんなこんなで私と礼二はこの新しい環境で初日から思ってもみなかった同居をする事になってしまったのだった。
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