新天地

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歩いて歩いて要約辿り着いたつけ麺屋さんは入り口の外にまでお客さんが列を成していた。歩いてくる時に見えた駐車場も満車に近く人気があるのが良く分かった。そんな中私達は列の最後尾に並んで順番が来るのを待った。 グゥ~。 「あっ…聞こえた?」 横に並んで居る礼二を下からゆっくり見上げる。 「色気も何もねぇな。」 「聞こえてたんだ。はは。」 「今日はキャラメル持って無いぞ。」 「あぁ、大丈夫。ありがとう。」 「にしても混んでるね。」 「この辺に飲食店ないから皆調べてあちこちから来るんだろうなきっと。」 「なる程ね。」   私達はそんな他愛ない話をしながら席が空くのを待った。そして二十分近く経った頃だろうか。 「二名様窓際のお席へどうぞ。」 つけ麺屋さんだけに回転が早く案外早く席へ通された。店内に入ると茹で上がった麺の匂いが蒸気と共にフワッと鼻に纏わり付いた。座席数もかなり多くてこの土地ならではの広さだった。席に向かい合わせで座り礼二が私にメニューを差し出す。 「俺はもう決めたからお前決めろ。」 「早くない?もう決まったの?」 「家に居る時スマホで決めた。」   「そうなんだ。えっと…あ、初めての店はやっぱり当店一番人気にする。」 「分かった。」 テーブルに備え付けられた呼び出しベルを鳴らすと店員さんがやって来て礼二は注文を通した。ふとこうして礼二と二人で外食しているこの状況が何だか凄く恥ずかしくて目の前の礼二の顔をまともに見られなくなってしまった。周りを見渡してみても家族連れとカップルが半々で私達もその人達から見たらカップルに見えているのかな…なんて思ってしまう。 「何キョロキョロしてんだ?」 「べ、別に。」 「しかし店内暑いな。」 礼二はそう言うと元々はだけていた胸元を更に露わにし手でヒラヒラ扇ぎだした。 「ん?お前も暑いのか?顔火照ってきたぞ。」 「う、うん、本当だね。暑い暑い…。」   私は店員さんが運んで来てくれたお冷やをグイッと全て喉に流し込むと礼二も同じ様に私に続いて水を飲んでいた。細長い指でグラスを持ち男性特有の凹凸のある喉仏を上下させながら飲む様が妙に色気をそそり目を奪われる。そしてはっと目が合うと私はまた周りに目を反らした。 「ふっ。」 「何?」 「挙動不審。」 「違うからっ。」 「落ち着けよ。」 「落ち着いてるわよ。」 「ふ~ん。」 テーブルに肘を突きながら嫌らしい目で私を見る礼二。まるで私の頭の中を覗かれた気分になった。そして礼二はそんな私を面白がっている様な態度にも思えた。 「つけ麺二つお待たせしました。」 すると両手にどんぶりを持った店員さんがつけ麺を運んで来て私達はやっと夕飯にありつけた。 豚骨魚介のスープに麺が絡んで口に入れるとその濃厚な風味がいっぱいに広がり私好みの味に満足する。お腹の空いていた私も礼二も黙々と食べ進めていきあっという間にどんぶりには麺が無くなっていた。 「ふぅ~。食ったな。御手洗い行ってくる。」 「うん。」 最後にお冷やをもらい口の中をさっぱりとさせ礼二が戻って来るのを待つ。つけ麺も食べ終わったし後は帰ってお風呂に入り眠るだけ…同じ空間に私と礼二が並んで眠る。果たしてぐっすり眠りにつけるのだろうか。礼二の方は自らズカズカと私の部屋に入り込んで来る位だからそんな気にして無いのかもしれないけど今の私には少々刺激が強すぎる。これから礼二の部屋の作業が終わる迄二人の同居は続く。あれやこれや考えている間に礼二のその近すぎる存在に私は慌てふためく事になるだろうとそんな予感が拭えないでいた。
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