新天地

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礼二が御手洗いから戻って来ると私達は会計を済ませ膨らんだお腹を擦りながら外に出た。つけ麺の麺が太くてこしもあって普通盛りでも全て食べきるとかなりの満腹感になっていた。なので帰りまたあの距離を歩いて帰るのは食後の良い運動になると思い行きよりも暗くなった夜道に気を付けながらひたすら歩き帰宅の途に着いたのだった。 家に帰るなり礼二が私にお風呂を譲ってくれたので先に入る事にした。シャンプーやボディーソープ、それからタオル等必要な物はまだ段ボールの中だった為ガムテープを剥がし一つ一つまるで宝探しみたいに取り出していく。全て揃え終わりやっとお風呂場へと向かった。 髪の毛、顔、体全て洗い終え疲れた体を浴槽に沈める。かなり歩いたせいでふくらはぎはパンパンで手を使って揉みほぐしていくと足が軽くなっていく様だった。そして実家よりかは少々小さめな浴槽だけど足を伸ばせるだけ伸ばしてじっくりと体を温めお風呂から上がった。 「礼二お待たせ。お風呂空いたよ。」 「あぁ。」 私は髪を拭きながら礼二に声を掛けると礼二は自分の布団を敷き始めていた。 「そんな、、そんなくっつけなくても。」 ボソリと独り言が思わず出てしまう。 「あ?何か言ったか?」 「いや、ま、しょうが無いか。段ボールあるしな。」 「何ブツブツ言ってんだか。」 そう言うと礼二も段ボールの中に手を入れてタオル等を取り出しお風呂場へと向かった。 私のベッドの横にピタリと付けられた礼二の布団を暫く見つめる。ベッドの高さで真横に礼二の顔は来る事は無いにしてもこの距離感は流石に気まずい。とりあえず髪から落ちる雫を拭きドライヤーを当てながら礼二を気にする事無くなんとか眠る方法は無いものかと考えていた。けど髪を乾かしても歯を磨き終わっても何も良い方法は思い付かなかった。いつの間にか壁に時計が取り付けられていてふと見上げれば十一時を回っていた。礼二がお風呂から上がって来て私の動揺が気付かれない様にさっと布団に潜り込み礼二の布団に背を向け早々と就寝の準備に入った。そしてイヤホンをして気を紛らわせる為に寝る前に音楽を少し聞いてみる。 ─────────。 ん? 深く被った掛け布団から明かりが差し込みバッと振り向く。  「何だよお前イヤホンしてんのかよ。通りで聞こえない訳だ。」 風呂上がりの匂いをさせながらまだ乾いたばかりのフワフワした髪で横になっている私の布団をめくり覗き込んできた。 「お風呂っ、出たんだ。早かったね。」 「男の風呂だからな。女性みたいにゆっくり洗わねぇんだよ。」 「そ、そっか。」 「それより明日は今日と同じく荷解きするが車が納車されるからどこか買い出しに行く予定だ。お前も来るか?必要な物もあるだろ?」 「うん。行こうかな。周りも見ておきたいし。」 「そうか。じゃあそんな感じで明日の予定は決まりだな。電気消すぞ。」 「うん…。」 部屋の明かりが消えた途端シンと静寂が流れる。外は人の気配なんかも勿論無くて道路はあるが車の走る様子もたまにしかない。 …。 礼二に背を向けていた私だったけどこの静けさに耐え難く向きを変えて下に居る礼二をそぉっと上から覗いてみる。 わぁ…。 カーテンの隙間から僅かに差す月明かりが礼二の整った顔を照らしていた。それは口に出てしまう程に美しくて礼二が礼二で無いみたいだった。暫くの間眺めているとそんな綺麗な礼二の顔に気付けば手が伸びていた私。あと少しで頬に指が触れ様とした時礼二の目が開いた。 「何してる。」 「っつ。」 その刹那私の手が礼二の手に捕まる。 「寝てなかったの?」 「まぁな。寝たとしても直ぐに起きるからな。」 「そっか、、私一人暮らし始まるし周りに人も居ないから一応24時間体制になるのか。」 「流石に毎日はキツいから大体でやる事にはなってる。」 「だよね…はは。起こしてごめんね。お休みなさい。」 ギュッ。 「え?」 「寝られないんだろ?俺にちょっかい出そうとしてきて。」 「ちょっかいじゃ無いよ。」 「じゃあ何だよ今のは。」 「これ、これはその…。」 私の手を握ったまま礼二は体を起こしこう言った。 「早めのホームシックか?寂しいんだったらこっちで一緒に寝てやっても良いぜ。」 すると握った手をグイッと引っ張り私をベッドから引きずり下ろした。 
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