新天地

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抵抗も出来ない間に私は下の礼二の布団に体を預けていた。焦ってガバッと起き上がり手を無理やり離した。私は自分でも分かる位に顔を赤く熱くして礼二と向き合う。すると私の顎を掴みながら。 「寝るか?俺は構わないが。」 そう口にした礼二の目は何時もの意地悪な感じは無く余計に私を困惑させた。 「…ベッドに戻るよ。」 「そうだな…。」 私は絞り出す様な声でそう言ってベッドへと戻って行った。 そして布団にくるまり無理やり目を閉じると心臓の激しい音が耳元でバクバクと騒がしく波打ちなかなか収まってはくれなかった。あんな言葉を口にするなんてひょっとしたら既に礼二は私の気持ちに勘づいてるのかもしれない。私を煽りからかう礼二の本心が分からずもどかしい夜となったのだった。 翌朝私は明け方迄眠りにつけ無かったせいで礼二の運転する車の中で終始ボ~ッとしてしまっていた。午前中は荷解きの続きを何とかやって納車も無事に済ませ午後はこうして買い出しに来ているのだが瞼の重みに耐えられず苦戦していた。口数の少ない私を気にしたのか礼二が私に聞いてきた。 「眠れ無かったみたいだな。」 「うん…。」 「今日は買い出し終わったら早めに帰って明日に備えて早めに寝ろよ。」 「早めに布団に入っても寝れない気がする。」 「はは。仕事への緊張感があって良い事だな。」 「そうじゃ無くて…あぁ、いいや。うん。そうそう。仕事緊張する~。」 「明日は初日だ。色々と向こうの店舗で打ち合わせもあるだろうから始業時間よりも早めに家出た方が良いな。」 「そうだよね。私もそう思ってた。ホールの人も厨房の人もどんな人が居るんだろう。堺さんみたいな気の合う人が居たら嬉しいんだけどな。仕事も楽しくなるし。」 「それもそうだがまずはしっかりと仕事覚えて来いよ。」 「分かってる。それが大前提だから。」 「分かってれば良いんだが。」 「礼二ってたまに親みたいな兄の様なそんな存在感出してくるよね。私よりも歳が上だからかな。」 「俺はそんな風に思って無い。親でも兄でもどちらでもねぇしなるつもりも一切無い。」 強めの口調ではっきりと私にそう言い放つ礼二はどこか怒りを滲ませている様に感じた。そして次の瞬間私の顔をまるで睨み付けるみたいに見つめてくる。 「ごっ、ごめん。言葉選びがおかしかったよね。」 「お前覚えてねぇんだな。あの時俺が話した事。」 「あの時…。」 「まっ、別に構わ無いけどな。あの後色々と事件もあってそんな事忘れちまうよな。」 「確かに色々あったけどでも…ごめん。思い出せない。」 「無理に思い出そうとしなくても良い。でももし思い出してお前が俺の言った言葉の意味を理解したならばその先の未来そんな風になれる事を俺は望む。」 「そ…う。分かった。」 礼二の言わんとしている意味がまだ分からなかったけどとりあえずその時はその言葉を受け止めて胸に収めた。 そして私達はサクッと買い出しをし家に戻り夕飯とお風呂を済ませ寝床についた…が、やっぱり私は隣の礼二が気になって結局なかなか寝付けなかった。 『お前は俺の前ではただのだ。そう捉えているがな────。』 忘れてんじゃねぇよ。 馬鹿雅────────。
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