ホテル恋花

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扉には休憩室と記されていた。 「ここは休憩室。従業員の皆と共有してます。自動販売機もありますがコーヒーメーカーも無料で使えますので良かったら。」 「ありがとうございます。」 入って目の前にまず見えたのは壁半分の高さに窓がいくつかありその横に自動販売機とコーヒーメーカーが並び中央には椅子とテーブル、そして壁側にはソファも置かれており広々としていた。良く見るとテーブルの上にカゴいっぱいのお菓子が用意されていた。 「あのお菓子は皆が持ち寄って食べているやつなんです。高嶺さんも手伸ばして大丈夫なので。たまに気付いたら補充しておいてくれると皆喜ぶと思います。」 「はい。」 簡単に説明を終えて休憩室を出ると続いてまた廊下を少し歩き女子更衣室と記された扉の前で足を止める。 「…で、ここが女子更衣室。僕はこれ以上入れないからここで説明します。入って右側のロッカーに高嶺と書かれたロッカーがあるのでその中に入っている制服に着替えてまたレストラン部迄戻って来てくれますか?」 「分かりました。」 「では後程。」 斎藤マネージャーはそう言って引き返して行った。私はガチャリと扉を開けて右側のロッカーの方へと進んで行く。すると従業員の方が一人着替えを済ませロッカーに備わっている鏡を見ながら身なりを整えていた。 「後ろ失礼します。」 私はその女性の後ろを肩をすぼませながら通る。そして手前のロッカーから順番に自分の名前を確認して行く。 「あの…もしかして高嶺さんですか?」 「はい。」 「奥から二番目です。ロッカー。」  「あ、ありがとうございます。」 「今何で知ってるのって思いました?」 「思いました。」 「私が斎藤マネージャーに言われてネームプレート書いて入れたんです。」 「そうだったんですね。用意して頂いてありがとうございます。」 「大した事してないですよ。それより高嶺さんはホール担当なんですよね?」 「はい。」 「私と同じですね。岩永です。よろしくお願いします。」 「高嶺です。よろしくお願いします。」 「知ってる知ってる。」 岩永さんはロッカーを指差す。 「あぁ、そうでしたね。」 はははっと笑いながらバタンとロッカーを開けるとハンガーに薄いベージュの半袖のシャツに茶色のタイトスカート、それからショート丈の白いエプロンがぶら下がっていた。上の棚には高嶺のネームプレートが置かれており私は早速着替えを始める。 「高嶺さんはどこの店舗から来たんですか?」 「高嶺ホテルの中華レストランの方から来ました。」 「あっ!あのフカヒレラーメンで有名な。」 「あはは。そうです。」 「前にお客様が高嶺ホテル泊まった時に食べて美味しかったって言ってたのよね。私も食べに行きたいんですけどなかなか…。」 「私も大好きです。」 「今は一人暮らしですか?」 「えっ、あ、はい…。」 「ん?」 「一人です、はい。」 「初めてですか?一人暮らしするのは。」 「初めてです。ずっと実家だったので。」 「そうですか。あのもし困る様な事があったら私で良ければ頼って下さいね。」 「嬉しいです。あの…話し方なんですけど普通で全然大丈夫ですよ私。」 「あら本当に?じゃあこれからはもっと普通にするわね。私今二十六歳で高嶺さんはきっと下よね?」 「はい。少しだけ。」 「じゃ、尚更タメ語で大丈夫だね。色々とおしゃべりしちゃったけど今日からよろしくね。」 「こちらこそです。」 雰囲気がどこか堺さんに似ている岩永さんに私は早くも親しみを覚えていた。
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