ホテル恋花

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「高嶺さんお疲れ様でした。」 斎藤マネージャーが声を掛けてくれた。 「お疲れ様でした。」 「いやぁ、レストランで働いていただけあって動きに迷いが無く熟せてましたね。働き出して三ヶ月の動きしてましたよ。」 「そんな、言い過ぎですよ斎藤マネージャー。」 「本当にそう感じたので言ったんですが。」 「ありがとうございます。でも最後お皿割ってしまいましたけど…すみません。」 「まぁ、そんな時もありますから皆。あはは。」 「はぁ…。」 「それよりも高嶺さん。明日もありますから一緒にまた頑張りましょうね。今日はお疲れ様でした。ゆっくり休んで下さい。」 「分かりました。お先に失礼します。」 私は斎藤マネージャーにそう言うと次に岩永さんを探し声を掛けた。 「岩永さん。お疲れ様でした。」 「あ、高嶺さんお疲れ様~。」 「今日は岩永さんのお陰でなんとか初日乗り越えられました。ありがとうございます。」 「照れるよ~。いいからそういうの。」 括っていた髪を解きながら歩くとシャンプーの良い香りが広がる。 「岩永さん髪長くて綺麗ですね。下ろすと雰囲気も変わってドキッとしてしまいました。」 「やだ~。本当に?」 「そうだ、岩永さんも一人暮らしなんですか?」 「うん。そうだよ。ホテルからわざと少し遠くにしたんだ私。あんまり近いと休日に会いそうで気が休まらないかと思ってさ。」 「成る程。」 「彼氏でも居たら同棲して一年後には籍入れて結婚式挙げて…なんて夢見たりしてるけどその相手がまだ居なくてね。もうアラサーだから早く結婚したいのよ。」 「岩永さんモテますよね絶対。綺麗だし明るいし。」 「モテなくは無いけど意中の人に振り向いてもらえないのよ何時も。」 「え?ていう事は好きな人居るんですね?」 「居る…よ。」 「気になりますね~。誰だろう。今日私見た事ある人ですか?」 「さぁ~ね~。時が来たら教えてあげるよ。」 「早く知りたいですけど分かりました。楽しみにしておきます。」 女子更衣室迄そんな恋バナをして歩いて行くと後ろから誰かに呼ばれた。 「岩永さん、高嶺さん。」 振り返ると早瀬さんが小走りで駆け寄って来た。 「あのさ、来週の火曜日なんだけど夜空いてるかな?俺休みで歓迎会しようかなと思ってるんだけどどうかな?厨房とホールの人達全員の休みは合わないから俺と斎藤マネージャーと岩永さんと高嶺さんでと計画してるんだ。」 「私その日仕事早番だから行けるわよ。」 「良かった。高嶺さんはどうかな?」 「来週は確か私も早番だったと思います。」 「なら一緒に行こうよ。」 「はい。歓迎会だなんて嬉しいです。」 「良し決まり!あ、じゃあ詳細連絡するから連絡先交換しても大丈夫?」 「大丈夫ですよ。今ロッカー行って取ってくるので休憩室で待っててもらえますか?」 「うん。分かった。待ってる。」 早瀬さんを休憩室で待たせている間に私は岩永さんと女子更衣室に行きスマホを鞄から取り出して再び早瀬さんの元へ戻る。岩永さんは既に早瀬さんと連絡先の交換を済ませていたみたいだけど何故か私と一緒に休憩室に付いてきた。 「…良し。これでオッケー。四人で会話出来る様にしておくからお店とか決まり次第こっちに連絡入れとく。」 「分かった。」 「分かりました。」 早瀬さんと連絡先を交換し着替えに戻ろうとしたその時。 「可愛い~っ!え、早瀬さん猫飼ってるの?」 岩永さんが早瀬さんのスマホの画面に釘付けになっている。 「あっ、これはその…はぁ~。白状します。猫飼ってます。アパートペット禁止なのに。すみません。」 「あはは。誰に謝ってるんだか。でも可愛い~本当。まだ子猫だね。見に行きたい!」 「えぇっと…部屋散らかってるし…な。」 「駄目?」 「…分かった。今度ね。」 「やった!」 早瀬さんは苦い顔をしながら岩永さんの申し出を聞き入れた。そんな岩永さんの顔をチラリと見るとすっかり乙女の表情を浮かべていた。私ははっとしてもう聞くまでも無く岩永さんの意中の人が早瀬さんである事に確信が持てた気がした。でも本当にそうだとしたらかなりお似合いの二人だとそう思った。シンクの所で交わした会話を聞いたけど冗談を言い合える仲って羨ましい関係であり良好の証だと思うから。 その後私と岩永さんは早瀬さんと別れ更衣室に行くと早めに着替えを済ませた岩永さんが先に帰って行った。私も数分後に支度を整えて更衣室を出てホテルの従業員入り口である裏口へと向かった。
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