歓迎会

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遅れて来た斎藤マネージャーが私の横に座りネクタイをグイっと下げたかと思うと誰よりも先に生ビールを呑み干して近くを通った店員さんに自ら注文する。 「すいませーん。生ビール一つ。」 「斎藤マネージャー呑みっぷり良いですね。」 早瀬さんが言うと得意気な顔で斎藤マネージャーが。 「ビールなんて僕にとってはチェイサーみたいな物なんでね。今迄ビールで酔っぱらった事なんて記憶に無いです。」 「流石、体育会系。」 「斎藤マネージャー何かスポーツされてたんですか?」 「僕、柔道やってました。」 私が質問するとそう返ってきた。確かに肩幅なんかもガッシリとしていてスーツの上からでも筋肉質なのが見て分かる。そうか。体育会系って吞み会とか凄いもんね。納得。 「そうだ。俺と岩永さんは見せてもらった事あるんだけどさ斎藤マネージャーの奥さんって凄い美人さんなんだよ。」 「早瀬君言い過ぎだから。」   ふと横に居る斎藤マネージャーに振り向くとまんざらでも無い顔をしながら生ビールを煽る。 「写真見せてもらってよ高嶺さん。びっくりするから。」 「本当ですか?見たいです。」 「え、えぇ?しょうが無いな~。はい。」 ジャケットの胸ポケットからスマホを取り出して私に差し出してくれた。 「わっ!綺麗な方。」 「ね、嘘じゃ無いでしょ?」      「何だか自分の奥さんを自慢してるみたいで恥ずかしくなってきました。年甲斐も無く。ははは。」    「斎藤マネージャー今何歳なんでしたっけ?」   岩永さんが聞いてきた。 「僕もう三十八歳です。おじさんまっしぐら。」 「え、でも奥さん一回り下で確かまだ新婚さんでしたよね?私と同い年の。」 「そうです。」 「良いな~羨ましいな~。優しい斎藤マネージャーと結婚出来て奥さん幸せだな~。」 岩永さんが目を細めて羨ましそうに斎藤マネージャーを見る。私は一回り下という言葉に驚きを隠せず斎藤マネージャーをただただ見つめていた。そんな様子に気付いた早瀬さんが私に。 「斎藤マネージャーはモテるんだよ。同性から見てもそう思える。女性に対して勿論優しいし扱いが丁寧で相手に特別感を与えられるそんな人なんだよ。俺もそういうとこ見習わないとな。だから彼女出来ないのかも。」   「何言ってるんですか。早瀬君は顔も良いし背だって高いし優しいし申し分ないじゃないですか。僕なんかより断然良い男だと思ってますけど…ね、岩永さん。」 「えっ…あ、はい。」 少しずつ頬が赤く染め上がっていく岩永さん。 「岩永さんの反応が微妙だなぁ。やっぱり俺斎藤マネージャーには程遠いいよね?」 「違っ、そうじゃ無い…です。」 「本当にぃ?ま、いっか。とりあえず斎藤マネージャー目指して頑張るよ。」 私には分かっていた。きっと岩永さんの中では早瀬さんはもうそれ以上何も望まない位とっくに完璧であるという事。だけど皆の前でそれを素直に口に出して言えるはずも無くはっきりしない中途半端な態度に早瀬さんは勘違いをしているのだ。目の前で繰り広げられる二人のやり取り。そして歯がゆい岩永さん。どうにかして早瀬さんに岩永さんの想いを届けたいのだけど…。 「岩永さんはお付き合いしてる人居るんですか?あ、ごめん。これコンプラなんちゃらに引っ掛かるのかな?」 「大丈夫ですよ斎藤マネージャー。ねぇ。岩永さん。」 「あ、はい。斎藤マネージャーなら私大丈夫ですから。今お付き合いしている人は居ないですよ。」 「そうなんですね。あの…ただ素直に心からそう思ったんですけど言っても大丈夫ですか?二人に。」   「はい。何ですか?」 「何ですか?」   「僕から見てお二人はお似合いだなと思いました…はい。」 何を言い出したかと思えばまさか斎藤マネージャーも私と同じ様に感じていたとは驚いた。いや、斎藤マネージャーがそう思うという事は私達だけじゃ無くきっと周りに居る人達もそう思っているのかもしれない。だってこんな美男美女が近くに揃っていればそう思わずには居られないよね。だけど私が密かにやろうとしていた役目を斎藤マネージャーが横から突然かっさらって行った様な何とも虚しい気持ちを抱えつつもふと思った。今みたいに聞き辛い事や言い辛い事も私なんかよりも人間的に感じの良い斎藤マネージャーなら全然ありだし、私が勝手にやろうとしていた二人をくっつけるその役目を頼まなくても果たしてもらえそうだなって。   ここは暫く斎藤マネージャーの様子を見る事にしよう。陰ながら期待してますよ。二人をくっつけて下さいね。斎藤マネージャー。 そんな会話をしながら合間合間に料理も注文していた私達は次々と運ばれて来る料理に手を伸ばしながら会を楽しんでいった。 ───────。 あぁ…そうだ。礼二はどこに居るのかな。 会もそろそろ終わりに近付き私は御手洗に立ち上がる。途中店内を見渡すとカウンターにポツンとお刺身の盛り合わせを摘まんでいる礼二を発見した。 「礼二。ここのお魚美味しいよね?それさっき私達も食べたの。」 「確かに美味いな。」  「あ、そうだ。多分もう料理も食べ終わったしそろそろお開きになりそうだよ。」 「そうか。じゃあ車で待ってる。」 「分かった。よろしくねぇ~。」 「お前酔ってんな。」 「はは。楽しくてつい。じゃっ、御手洗に行きます!」 「はぁ~。気を付けろよまったく。」 私はお酒も入りご機嫌になっていた。フワフワした足元で御手洗を済ませ席に戻ると斎藤マネージャーが締めの挨拶を始めた。 「皆さん。今日は高嶺さんの歓迎会楽しかったですね。高嶺さんも明日からまた僕達と楽しく和気あいあいと頑張って行きましょう。」 「はい。本日はこの様な会を開いて下さりどうもありがとうございました。」 挨拶が終わりそれぞれ鞄を持ったりジャケットを羽織ったりして店の出口へと向かう。斎藤マネージャーが率先して会計を終わらせてくれていて私達は真っ直ぐ駐車場に行った。斎藤マネージャーは既に奥さんが迎えに来ていてその車に乗り込み帰って行った。岩永さんは鍵を開けに一足先に車に向かっていた。私は予想より酔いが回り頭がグラグラし始めそれを察知した早瀬さんが礼二の待つ車へと私を支えながら誘導してくれた。 「高嶺さんこの車であってる?」 「あ、はい…大丈夫です。ありがとうございます。」 「家に帰ったらお水飲んでね。じゃあね。お休み。」 「お休みなさい。」 早瀬さんはそう言うと私に背を向けて岩永さんの車へと歩き出した。 バタンッ。 ん?何で礼二外に出るの?これから帰るのに。 「優弥っ!」 すると早瀬さんの背中に向かって礼二はそう言い放った。
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