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「ねぇ、いつまで、その格好でいるの?」
見上げると、熱帯魚のような君がいた。
水色の髪にレモン色のメッシュ。アメジストの瞳は、相変わらずきらきらと輝いていた。
「本当は、男性らしい格好をしていたいんじゃないの?」
ほんと、馬鹿だなぁ……この子は。
戻りたいに決まってるじゃん。この格好から。
この格好というのは、女装した格好のことだ。僕はとある事件がきっかけで、自分の身元を隠すために、女装するようになったのだ。
まあ、今はその事件から5年くらいの月日が経っていて、覚えている人なんて、もうほとんどいないんだけどね。
僕はそう思ってから、いつも通りの女声で、彼女の疑問に答える。
「別に。この格好の方が慣れちゃったから。たまにでいいのよ。あっちの姿は」
立ち上がって、丘から降りる。
「あっ!ちょっ!」
慌てて追いかけてくる君。振り返らなくても、気配を読まなくても、だいたい分かる。
はぁ……そんなに僕に構わないでほしいなぁ……。この感情って結構抑えるの大変なんだよ?それに、僕は君に好きな人がいるってことだって、知っているんだからさ……。
「百合の花……綺麗に咲いたらいいね」
「え?」
そう言うと、僕は逃げるように彼女から離れた。
瞳に浮かんだ涙は決して見せたくなかったから。
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