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3-3
「やっぱり平日は空いてるね」
「だな」
電車に三十分ほど揺られて辿り着いた水族館は思っていたとおり人は多くなく、ゆっくり鑑賞して回れそうだった。
小さな子連れの家族やカップルが目立ったが、自分たちと同じ男同士――友人で連れだって来ている姿もちらほら見かけ、内心少し安堵した。
「水族館なんて久しぶりだな……」
「俺も。撮影とかでは来るけど、遊びに来たのは修学旅行以来かも」
「ああ、沖縄な。めちゃくちゃ前だけど、多分俺もそれだな。で、どこから回る?」
流石に沖縄の有名水族館に比べれば小さいがこの水族館も都心にしてはそれなりに広くエリアもイベントも充実しているらしい。
館内案内図をふたり覗き込めば、嘉貴が迷わず「ここ」と一点を指し示す。
「……クラゲ?」
「そう。ここ種類も数もすごいらしくて。あ、あとペンギンも近くにいるから、こっちから回って行かない?」
「分かった。じゃあそっちから時計回りにこう見て行こうぜ」
「あとイルカの赤ちゃんが去年産まれてるらしいから、その子も見れるといいなぁ」
「マジか。絶対かわいいじゃん」
見て回るルートを決めて、早速目的地へと向かう道中にも水中トンネルや足元がガラス張りのエリアがあり、ふたりして子どものように浮き立ちはしゃいでしまう。あとでまたじっくり見ようと言いながら踏み込んだフロアの光景に、思わず小さな感嘆の声がこぼれ落ちてしまった。
「おぉ、すげぇ」
大小様々なサイズの球体型の水槽が数多く飾られたクラゲコーナーは壮観で、隣の嘉貴は輝いた瞳であちこちに視線を動かしている。
優しい水色の間接照明に包まれ漂う姿はどこか愛らしく、眺めているだけで穏やかな心地にさせてくれて凌も目尻を少し下げた。
「クラゲって共食いするんだっけ?」
「……多分クリオネの話だろ、それ」
「そっかぁ。……ここってクリオネいるんだっけ?」
「いねーし、共食い期待すんなよ……」
仮にもデートと言い張るなら、もう少しまともな話題にしてみろ。と思ったが、藪蛇なのでもちろんそんなことは言わない。
「俺この子好きだな。柄かわいくない?」
「確かに。でも俺こっちのやつもいいな」
「いいね、プルプルしてて食べたら美味しそう」
「そういう意味じゃねぇよ。何? もう腹減ってんのか?」
「いや? どっちかって言うと凌のほうがお昼まだ食べてないから空いてるんじゃない?」
「んー、そんなに減ってねぇかな。一回一通り見てから考えようぜ。今の時間だとメシ屋も混んでるだろ」
「凌がそれで平気なら俺は大丈夫だよ。あ、見て。あそこの自販機クラゲジュースってある。後で飲もうね」
「え。…………マジのクラゲ?」
食用のクラゲがあることは知っているが、ジュースとなると味も食感も想像がつかない。あまりそういう冒険心のない凌が恐る恐る尋ねると、目を丸くした嘉貴が勢いよく抱きついてきた。
「ふふ、そんなわけないじゃん。ただのクラッシュゼリードリンクだよ。もう、かわいいなぁ凌は」
「うっ、うるせぇ! ってか近ぇ!」
「普通のスーパーにクラゲって売ってるかな? 家で食べる?」
「人の話聞け! そんであっても買わねーし食べない!」
「館内ではお静かにしようねぇ」
「じゃあ離せよ……っ!」
誰のせいだと小声でぎゃあぎゃあとひとしきり騒いだ後は、ペンギンやイルカ、熱帯魚を見て回った。あっちに行こう、次はこっちと最初に立てたルートなんて無視して時間をかけてのんびりと館内を巡り、ひときわ大きなパノラマ水槽の前でどちらからともなく緩やかに足を止めた。
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