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 結論から言うと、子猫は一命を取り留めた。  「あと少しでも遅かったら死んでいた」と獣医に恐ろしいことを言われながら。  けれど衰弱しているのでしばらくは入院が必要なこと、その治療費が高額なこと、そしてその入院には飼うことが条件ということも重ねて告げられた。  費用はまだしも、アパートで飼うことができない凌が逡巡している間に、隣にいた徹がふたつ返事でその全てを快諾。  気づくと承諾書にサインをして、会計まで終わっていたのだから凌はひどく狼狽えた。  そこまでしてもらっては申し訳ない。そう慌てる凌に「うちはお金余ってるから」と答えたのは嘉貴で、お前が言うなと言わんばかりに徹は隣で苦笑していた。  けれど嘉貴を見る眼差しはどこか優しくて、これが「父親」の姿なのかと、正解を知らない頭でそう思った。  病院を出れば、そのまま有無を言わさず露口家へ連行。そして紗英への挨拶よりも先に押し込まれたのは浴室で、気がついたら嘉貴とふたり仲良く湯舟に浸かっていた。  初めて入った露口家の風呂はもはや温泉だった。  六人くらいなら一緒に入れそうな檜風呂と、大きなガラスの向こう側には手入れされた木々の美しい景観。  温泉は好きだが夫婦共に忙しく足を運ぶ時間があまり作れないから自宅の風呂を温泉風にしちゃおう、という結論になったらしい。金持ちの発想はすごい。  初めて家を見た時もそのでかさに驚いたが、まだまだびっくり箱みたいな仕掛けなんかがありそうだなぁ、と高い天井を見上げながら息を吐いた。  誰かとこんな風に風呂に入るのは中学校の修学旅行以来だし先ほど泣いてしまった気まずさもあったけれど、疲労困憊の身体も脳みそも芯から溶かしてくれる心地よい湯加減に、そんなことすぐに気にならなくなっていた。  視線を右へずらせば、こんなに広い空間にも関わらず真横でくつろぐ引き締まった身体に変な意味ではなく純粋に惚れ惚れしてしまう。  腕も足も長くて、同い年のはずなのに随分造りが違うものだ。 「ん? どうかした?」 「いや、いー身体してるよな……さすがモデル」 「ふふ、ありがとう」 「ってか紗英さんに挨拶する前に風呂なんて借りてよかったのかよ。そりゃ汗まみれで身なり悪かったかもだけど」 「ああ、違う違う。母さん猫アレルギーだから、先に着替えてもらいたかったんだ。それならついでに汗も流してすっきりしてもらおうかなぁって」 「え?」 「あ、着替えは母さんが用意するって張り切ってたから。夏の新作、凌にすっごく似合うやつあったんだよ」 「いや、そこじゃなくて。紗英さんがアレルギーなら、あいつ飼えなくないか?」
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