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5-3
「あーぁ、やめやめ。いっそ全部ぶちまけさせようって思ったけど、やっぱり向いてないや。こういう追い詰めるみたいなやり方」
ごめんね、と凌を抱き締めて、深く息を吐く。
「言っただろ? 大事にしたいって」
首筋に顔をうずめて、甘い声が囁く。ぞくりと震えた身体に気づかれたくなくて抵抗する凌に、嘉貴は気をよくしたのか小さな笑みと共にくちづけをひとつ首筋に落とした。
「ひ……っ! 何するんだよ!?」
「ね、何で俺が凌のことこんなに好きか知ってる?」
「知らねぇし興味ねぇよ! やめろ!」
「格好良かったからだよ」
人の台詞なんてお構いなしに、嘉貴が言葉を重ねる。
「格好良くて、俺が支えたくなったの」
抵抗が収まるのを確認して、腕の力が緩む。見つめ合った瞳は、凌がよく知っている陽だまりのような温もりを帯びていた。
「凌って、基本的にひとりで何でもできるだろ? 勉強もできるし生活能力高いし、将来のために貯金もきちんとしてるし、自立してて格好いいなっていつも尊敬してた。それがたとえ強がりだとしても……、それを貫き通す意志の強さにも惚れたんだ。そういうところも含めて全部俺が大事にしたくて、愛したいって思った」
甘い毒が、耳から全身へ巡り身体の自由を奪っていく。
指の一本も動いてくれやしない。
「この格好いい人の強いところも弱いところも全部、俺が独り占めしたいって……。ふふ、これが恋じゃないなら何? って感じだろ?」
毒が回り、頭がおかしくなりそうだ。
よくシラフでそんな恥ずかしい台詞が喋れるな。勘弁してくれ。
揺らめいているのは自分なのか、世界なのかももう分からない。
「ひとりで頑張れるところは今まで通り頑張れよ、俺も応援するし。でもどうしようもない時に、一番最初に頼る相手は俺がいい。俺じゃないと嫌だ。お前が無条件に甘えられて安心できる場所に、俺を選んでよ、凌」
――この身体を、抱き締めてしまいたい。選んでしまいたい。俺だってお前じゃなきゃダメなんだと伝えたい。
そう思うのと同じくらい強く、許されないことだと理性が咎めてくる。
何度もかぶりを振り、凌は震える手でその胸板を押し返した。
「…………怖いんだ」
「え?」
「お前は怖くないのかよ? 徹さんと紗英さんにどんな反応されるか。俺は弱いから、怖い。反対されるに決まってるだろ? 大事なひとり息子が道を踏み外したって怒るかもしれねぇ。――傷つけて、泣くかもしれない……」
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