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草木の匂いが濃くなった。
もうすぐ、雨が降る。
お前もそれに気付いて、何処かで走り出してるんだろう。
山か、森か、川か。
よく行く遊び場はその辺りだね。
濡れて帰れば怒られると思ってるから、走るんだろう。
『どうせ洗濯すれば濡れるのに』なんて屁理屈も言うだろうね。
お前が濡れて風邪でも引いたらって心配だったんだよ。
燃える様な夕焼けを思い出す。
世界の果てまで絵の具を溢したみたいで、お前は『神様の悪戯だ』って言ってたね。自分で絵の具を溢した時にも『神様になれた!』って無邪気に喜んで、笑うしかなかったよ。
私の目が見えなくなってから、お前にも仕事を頼んで悪かったね。もっと遊びたかっただろうに。
本当に助かっていたよ。
だから最初は、仕事が嫌になって家出したと思ったんだ。
夜になっても帰らないから村中みんなで探して、知らせてくれたよ。
崖から落ちて死んでたって。
目に効く薬が作れる花を取ろうとしたんじゃないかって。
お前の声で言ってくれなきゃ、信じられないよ。
ほら。もうすぐ雨が降る。
その前に、帰っておいで。
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