3人が本棚に入れています
本棚に追加
人魚姫の姉
とぷり、とはるか水面が揺れた音がした。
ほとんど波もないそこで、海蛇どもが少し揺らめいたようだが海底はすぐに静寂を取り戻した。
またか。
またひとり、海の娘が消えたのだろう。思わず溜息をつく。美しい声を失い、切り裂かれるような痛みに耐えてまで叶えたいといった願い。
また、ダメだったのだ。
脚のあるものに焦がれ、陸地に恋し、三百年という永い命を捨ててまでも。
ちらとでも顔を知っているものが、特に自身が運命の道を逝く手伝いをしたものであれば、感情が少し波打つこともある。
だがいくら悲しもうがすでにこの世にないという事実は変わらない。
不思議なことにどれだけ逃げ道を作ってやっても、自分自身で選んで破滅の道を逝くものもいる。魔女のもとにやってくるのはそんな奴らばかりだ。それを変えてやることはできない。たとえそれが、偉大な魔法使いであっても。
魔女はそれをよく知っていた。
海底の魔女は、永く生きすぎていた。歳を取るごとに、些細な悲しみだの怒りだのに支配されることは少なくなる。それが喜ばしいことなのかどうかすら、もう魔女にはわからない。
だが、そうではないものもいる。
最初のコメントを投稿しよう!