10.Xmas特別メニュー

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10.Xmas特別メニュー

 町にクリスマスソングが流れ、商店街にはサンタクロースやクリスマスツリーの飾りが目立つ季節がやってきた。洋食亭ゴーストは今までメニューを変えずに営業してきたが、光太と零はクリスマスには何か特別メニューをやろうと考えていた。  「クリスマスと言えば七面鳥だよね!タレで味付けしたら最高だよ。」  光太はクリスマスの七面鳥が大好きだ。小さい頃から実家で過ごすクリスマスには、決まって七面鳥が出てきた。口の周りいっぱいにタレをつけながら食べるのが幸せだった。光太は今にもよだれが垂れそうなのを抑えていた。  「光太は七面鳥派なのか!うちはローストビーフだったなあ。」  零の家ではローストビーフが出てきたようだ。  「家によってまちまちなんだね…。そしたら両方作ろうか!」  光太の提案に、零も賛同した。こうして、クリスマスのメニューに"骨付きタレチキン"と"お手製ローストビーフ"が期間限定で追加された。    例え何か嫌なことがあっても、特別な予定がなかったとしても町の雰囲気が一段階明るくなり、ワクワクする。それがクリスマスではないだろうか。12月24日のクリスマスイヴになると、光太と零はサンタクロースのコスチュームに実を包んでいた。光太は着るのが恥ずかしくて抵抗があったが、零のごり押しで結局は着ることになった。しかし、着てみると見た目からクリスマス感が漂い、意外と気に入った。  "12月24日洋食亭ゴースト、営業開始です。 クリスマスメニューも2日間限定で出します。"  SNSに営業開始を知らせる投稿をすると、早速一件の注文が入った。  「クリスマスパーティー用に、チキンとローストビーフ2人前ずつお願いします。」  二人は調理に取りかかった。なるべくクリスマスの雰囲気を出すため、盛り付けのちょっとした飾りに、小さいサンタクロースとヒイラギの葉をちりばめた。  この日は光太が配達の日だった。料理を持つと、注文をもらった1キロ先の家まで自転車をこいだ。到着した住宅の庭には色とりどりのイルミネーションが煌めいていた。それを見た光太は、クリスマスの夜のほんの一部を担えることに、誇りを感じていた。  インターホンを押すと、セミロングのきれいな黒髪の女性が出てきた。  「はーい。あれ、光太くん…?」  光太は一緒戸惑った。なんと目の前にいるのは同じクラスの弥生だったのだ。  「弥生ちゃんだったのか…注文くれたの。」  光太は急にどぎまぎしていた。同じクラスの、しかも光太が好意を寄せている人が注文をくれたなんて…。  「そう。たまたまSNSいじってたら美味しそうな投稿を見つけてね。クリスマスに注文してみようって思って。光太くんはバイトでもしてるの?」  光太は「いや…」と言いかけたがそこで止まった。弥生には自分が作ったことを言いたかったが、もしレストランをやっていることがバレたら不味いことになる。ここは誤魔化すのが懸命だと判断した。  「うん、バイトみたいな感じかな。知り合いから人が足りないから手伝ってくれって言われてね。」  「そうなのね!クリスマスまでご苦労様。あ、そうだ!ちょっと待ってて。」  弥生は一旦部屋に戻ると、一枚チケットのようなものを持ってきた。  「光太くん、明日暇かな?もし暇なら私とここに行かない?忙しかったら全然いいんだけど…」  光太はもらったチケットを見て仰天した。今にも舞い踊りたい気分だった。それは隣町の遊園地「セレクションランド」のイルミネーションチケットだった。  「い、行きたいけどぉ…僕でいいの?」  「いいのよ。私彼氏とかいないし、周りの友達も予定あるみたいで、よかったらなんだけど…」  「そうなのか…。うん、ちょっと確認させてもらってもいい?バイトの予定もあるし帰って確認してみるよ。」  「わかった!明日学校で返事くれればいいから、待ってるね。」  弥生はそう言うと、笑顔で手を振っている。  「あ、ありがとうございます。ではまた…。」  光太は、ぎこちない敬語で話すと、玄関ドアを閉めた。  クッチーナに戻ると、零はいなかった。おそらくまた注文が入り、配達に出たのだろう。光太はキッチンの椅子に腰掛けると、先ほどのやり取りを思い出していた。  弥生からイルミネーションに誘われるなんて夢のような話だ。そんなことが起こるなんて思いもしなかった。でも明日もクリスマスメニューをやるから忙しいだろうし、第一女の子とデートなんて生まれてから一度もしたことがない。どうすれば…。  答えがない回想にふけっていると、零が配達から帰ってきた。  「いやー、今夜は忙しいな!3軒も配達してきたよ。」  零はもう一つのキッチンの椅子にもたれ掛かった。  「明日も忙しいかな?」  「明日がクリスマス当日だからなぁ。忙しいんじゃないか?」  零は当たり前だろといった感じで答えた。  「零ちょっと聞いてよ。今夜配達に行った先のお客さんがね、クラスの女の子だったんだ。たまたまだったんだけどね。そしたらこのチケット渡されて、明日一緒に行かないか?って…」  光太は先ほど弥生からもらったセレクションランドのイルミネーションチケットを見せた。  「え?!それってデートのお誘いじゃん!行ってこいよ当たり前じゃん!」  「えでもさ、お店も明日忙しいじゃん。零一人に任せられないよ…。」  「なに言ってるの光太。店は明日も明後日もできるけど、女の子からのお誘いなんてそうそうないよ。行ってきな。」  零は光太にチケットをしまうように仕向けた。  「店は俺が何とかしとくから。大丈夫だ一日くらい。」  零はそう言うと、閉店作業に取りかかった。光太は嬉しかった。レストランに並々ならぬ思いを抱く零だから、店を優先するように言われるかと思っていた。だがそうではなかった。光太は零の背中がまた少し大きく見えるような気がした。それと同時に、明日のデートに対する楽しみ混じりの不安も少しずつ膨らんでいった。
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