12.恋愛相談

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12.恋愛相談

 翌日、光太はいつものようにレストランの開店準備をしていた。零は昨晩どんな展開になったのか気になって光太の様子を観察していたが、特段変わった様子はない。零はしびれを切らし、単刀直入に聞くことにした。  「昨日のデートどうだったよ?」  「楽しかったよ。女の子と二人きりで遊ぶなんて初めてだったしね。」  「それだけ?何かないの、手を繋いだとか、チューしたとか、付き合ったとか!」  「何もないよ。てか何期待してるんだよ。」  「いやだって、クリスマスだったでしょ?そりゃー、何かあったっておかしくないじゃん。」  それもそうだ。昨日はクリスマスだったんだ。光太は、その何かを作り出せなかった自分にまた後悔を覚えた。  「あとさ、クリスマスプレゼントとかあげたの?」  「クリスマスプレゼント?そういえば、何もあげてないな。」  「それはだめだよ!チケットもらったんでしょ?男として、もらったチケットで一緒に遊んで、楽しかったねバイバーイじゃあちょっとねぇ…。」  「それは確かに…。ああぁどうしよう。本当に何やってんだよ僕は…。」  「まあでも、そこは今からでも取り返せるんじゃない?プレゼント持ってけばいいじゃん。学校で渡すのが恥ずかしければ、家も知ってるんだし。」  「たしかに!まだ大丈夫かな…それなら何か手作りしたいな。お菓子とか!」  「いいじゃんか。弥生ちゃん、何が好きかわからないの?」  「うーん、昨日の会話でチョコが好きとか言ってたかなぁ。」  「それならガトーショコラとかどう?喜ぶんじゃないかな。」  「いいねガトーショコラ。今日の空き時間に作っちゃうか。早いほうが良さそうだし。」  光太はオープン準備を終えると、ガトーショコラの材料を買い出しにスーパーへ出掛けた。もしかしたら昨晩の挽回ができるかもしれないと思うと、胸がワクワクした。  この日はとても暇だった。クリスマスの忙しさが嘘のようだ。クリスマスが終わると、町は一気に年末ムード。皆やり残した仕事や用事を終わらせるのに必死だった。  光太もまた、昨日やり残したプレゼントを渡すべく、弥生の家に向かっていた。果たして喜んでくれるのだろうか。不安な気持ちが積もっていった。  そして、弥生の家の玄関に着いた光太は、大きく深呼吸をした。  "嫌われてもいい。とにかく自分の気持ちを伝えるんだ。"  クッチーナを出る直前に、零がかけてくれた言葉を思い出した。覚悟を決めた光太はインターホンを押した。  しばらくして、弥生のお母さんが出てきた。  「あれ!光太くんだよね?昨日は弥生も楽しかったようだよ。ありがとね。」  「いえいえ、こちらこそチケット用意してもらって、すごく楽しかったんです。それで、昨日渡せなかったクリスマスプレゼントを作ったんですけど…弥生さんはいますか?」  「呼んでくるから、ちょっと待っててね。」しばらくすると、すでにパジャマ姿の弥生がやってきた。パジャマ姿もとても可愛らしかった。  「あ、弥生ちゃん。昨日渡せたらよかったんだけど、よかったら食べて。」光太はガトーショコラ入りの紙袋を渡した。  「えー!ありがとう!!これ、光太くんの手作り?」  「うん、美味しいかわからないけどね。」  「すごいなー、ありがとう。そういえばね、光太くんに昨日言えなかったんだけど…私、年明けからアメリカに1年間留学するの。」  「え…。そんな。急でびっくりしたよ。」  光太は大きなショックで腰から崩れ落ちそうだった。好きになった人に1年間会えないことが、これほど辛く感じるとは思わなかった。  「バレーを頑張りたくてね。今の高校のレベルだと正直物足りなくて。もっと成長できる環境でやりたいって思ったの。」  「そうか。でもすごいね!自分の成長のためにか…本当すごいよ。」  「なんでそう思ったかっていうと、私ね、実は光太くんがレストランやってること、ちょっと前から知ってたんだ。学校帰りにたまたまレンタルスペースに入っていく光太くん見つけて後をつけてみたら、もう一人の若い男の人と楽しそうに料理をしていたの。私には二人が輝いて見えて、それで、やりたいことを今やらなきゃダメだって気づいたの。」  「僕らを見てそう思ってくれたのか…。弥生ちゃんが1年間いなくなるのは正直寂しいけど、全力で頑張って欲しいかな。」  「ありがとう。最後に光太くんの料理食べられてよかった。洋食亭ゴーストで光太くんが料理作ってるっていうことも、SNSで探して知ってたんだよ。だからわざと頼んだの。」  「そこまで知ってたなんて…。でも、僕らが作ったのを知ってて食べてくれていたことは、ちょっと嬉しいかも。」  「また一年後帰ってくるから、その時にどんな1年だったか、報告会しようね!それまで、お互い頑張ろう。」弥生は一瞬寂しそうな表情を浮かべたが、言葉を言い終えるといつもの笑顔に戻っていた。  「うん、頑張ろう!それじゃお元気で…」そう言うと、光太は玄関ドアをゆっくり閉めた。  これでよかったのだろうか。光太は自転車をこぎながらしきりに考えていた。結局自分の気持ちを伝えることができなかったのだが、弥生と本音で語り合えた気がする。少なくとも、昨日よりは仲が縮まったはず。それに、自分が頑張る姿を見て留学の道を選択したと聞くと、なんだか誇らしい気持ちになった。  「よっしゃ!1年後、もっと成長した姿で弥生ちゃんに告白だ!」  光太の心からの叫びは、夜の河川敷へと吸い込まれていった。
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