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2.好きな人
それからというもの、光太は暇さえあれば料理の勉強をするようになった。勉強といってもスマホで色々な料理について眺めるだけだが、それだけでも次に何を作ろうとか、将来こんな料理作れたらいいなとか、妄想を膨らませていた。
この日も学校の昼休みに、いつものようにインスタグラムで料理の投稿をボーっと眺めていた。「なあ、お前いつもそんなもん見てるの?」と、後ろからバカにしたような声で話しかけられた。
そいつの名前は裕人(ゆうと)。いつもクラスの中心的存在で、運動神経抜群で勉強も優秀。光太がかなうものは何もない。
「なんだよ、いいじゃん人の勝手なんだし。」 光太は珍しく反論してみた。
「別にいいけどよ、何かもっと高校生らしいことしろよな!」
裕人がそう言うと、周囲のクラスメートの大半が笑っている。
光太は悔しかった。料理が好きなんて恥ずかしくて話せなかったが、自分から初めて本気になったものをバカにされたことが、たまらなく悔しかった。
「ほっといてくれよ!いいじゃんか別に!!」 そう言いはなつと、光太は教室を出て行った。
親以外に、言葉を荒げたのは初めてだった。光太は体育館脇の通路で、手すりにもたれ掛かっていた。考える前に感情的になっていた。それほど悔しかったのだ。
三十分ほど経つと、光太はやっと冷静さを取り戻し、物思いに耽っていた。しかし、冷静になって考えても頭にくる。きっとしばらくは癒えない傷だと思った。
「光太くん、私はね、料理する男の人素敵だと思うよ!」
優しい声が聞こえた。振り返ると、そこには同じクラスの弥生(やよい)が心配そうな顔をして佇んでいた。
「あ、ありがとう。そう言ってくれる人がいるなんて、思わなかったな。」
光太はせめてもの作り笑いを浮かべたが、悲しさ反面、優しくされた嬉しさ反面でぎこちない表情をしていた。
「以外とね、女の子からすると男子が料理するって素敵って考える人多いと思うよ!だから裕人くんに言われたことなんか、気にしないで。」
そう言うと弥生は軽く手を振り校舎に戻っていった。
こんなにも友達の優しさが身に染みたことはない。光太は今にもこぼれそうな涙をこらえて、弥生に続いて校舎へと戻っていった。
この日の授業が終わった帰り際、光太は弥生にお礼を伝えた。
「今日、ありがとね。料理のこととか、なかなか周りには言えなかったけど、前向きになれたよ。」
「大丈夫だよ。今度私にも作ってよね!」いたずらな笑顔でそう答えると、弥生はバレー部の活動へと向かっていった。
「僕でよければ、いつでも作るよ!」そう言いたかった。でも、もしいざ作って食べてもらう展開になった時のことを考えたら…光太は突然恥ずかしくなり、何も言えなかった。
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