3.零との出会い

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3.零との出会い

 「今日は色々なことがありすぎたなあ…。」光太は夕日が沈みかけた通学路を、一人歩きながら考えていた。初めて同級生に大声で反論したこと、女の子に慰められて涙しそうになったこと。同級生に対して当たり障りない付き合いをしてきた光太にとって、この日の出来事はショックが大きい。現実逃避したくなった光太は、直接家には帰らず、寄り道して帰ることにした。  まず、デパートに寄り道した。この日はパーっと遊びたい気分だった。普段はほとんど立ち寄ることがないゲームセンターで、久々に遊んだ。1ヶ月5000円のお小遣いで暮らす光太は、持ち金の半分以上を使った。UFOキャッチャーで大きな熊のぬいぐるみを狙ったが、2000円使っても取れなかった。あとはルールがよくわかっていないスロットゲームをやった。たまに当たると気分がよかったが、お金がなくなっていくのも早かった。気づいた頃には残金が1200円になっていた。  そして、その残金で夕飯を食べるため、光太は「喫茶ミツイ」に向かった。ここはたまに家族でご飯を食べに来る場所で、光太は決まってナポリタンを頼んでいた。「ここのナポリタンは昔ながらで美味い!」って父さんが言うのがなんとなくわかる。この日もナポリタンを一口すすると、とても懐かしく、奥深いケチャップの味わいが口一杯に広がった。  光太は、喫茶ミツイで閉店間際まで過ごした。もう午後十時になる頃、お店にお客さんは一人もいなかった。その時、マスターに話しかけられた。  「おにいちゃん、珍しく今日は一人だね。」  「少し一人になりたかったんです。」  光太は食事代千円を支払い、店を後にした。とことん一人を満喫した光太は、以前より気持ちが軽くなっていた。  すでに夜は更け、町の明かりも徐々に消えていた。明かりがついているのはおそらく居酒屋か、怪しい風俗店くらいだろう。  光太は思う存分一人を満喫したことで、気持ちがスッキリしていた。今まの自分ではやらないような無駄遣いもした。どこか一皮むけたような感覚を携え、光太は帰りに向かった。  しばらく歩くと、光太は頬に生ぬるい空気を感じた。  「気のせいだよな…」  そう信じこみ、歩みを早めた。しかし、一向に頬にだけ感じる生ぬるさが消えない。ましてや午後十一時前である。光太は背筋が凍るような恐怖を感じた。  「誰かいるの?!」  しぼりだしたような声で、誰もいないはずの空間に話しかけた。  「やっと気づいてくれたか」  はっきりとした声で返事が返ってきた。そして光太は気を失った。おそらく数分間は経っただろう。しばらくして目が覚めると、そこには映画でしか見たことがないような、体が半透明になった男性が立っていた。  夢だと思った。むしろそうであって欲しいと思った。光太は必死に後退りした。  「近づかないで!!」  精一杯叫んだが、恐怖で声に力が入らない。    「まあそう怖がらないでよ。俺は君と仲良くしたいだけだよ。」  幽霊は襲いかかりませんと言わんばかりに、その場にあぐらをかいてしゃがみこんだ。    「え…ていうか、あなたはどこから来たんですか?」  光太は恐る恐る尋ねた。    「どこからって、俺は一回死んでるからね。あの世からだよ。」    「そんな…なんで僕について来たんですか?」    「君、さっき喫茶店でナポリタン食べてたでしょ。俺も生前あの喫茶店でよく珈琲をいただいててね、死んだ今でもたまに行くんだよ。居心地が良くてね。」    「あの店から…。でもなんで?早く帰ってくださいよ!」  光太は何をしてくるかわからない幽霊に、これ以上付き合うのは御免だと思った。    「さっき君、喫茶店で寝言言ってたよね。覚えてる?」  たしかに光太は喫茶店で少し寝落ちしてた時間がある、しかし自分の寝言を覚えている訳がない。    「君レストランやりたいって、はっきり言ってたんだよ。それ聞いてね、俺が生きてた時と同じだっ!て思ったんだ。」    「たしかに将来の夢はレストランで料理作ることですけど、、てかあなたは何歳の時に亡くなったんですか?」    「俺は19歳の時に交通事故でだな。突然だったよ。まだ若かったし、未練もあるからこうやってこの世に戻ってきたんだ。」    「だいぶ若いんですね…。料理が好きだったんですか?」    「当時、調理師学校に通ってたんだ。そのまま行けば調理師免許取って、洋食レストランに就職するつもりだった。まあ今では無理なんだけどな。」  幽霊は少し寂しそうな表情を見せた。    「それはお気の毒ですね。でも僕に付きまとうのはやめてください!まだ料理人とか、なれるとしても先の話ですし。」    「そうとも限らないよ。よかったら俺と一緒にレストランやってみないか?高校生でもできる方法知ってるんだ。」    「そんな話、信じられないですよ!怪しすぎる。」    「そう言われると思った。でも話だけでも聞いてほしいんだ。今"ゴーストレストラン"と呼ばれる店を構えないスタイルの飲食店が流行っていてな。それなら、お前が高校が終わってからの時間でできるし、俺だって営業に関する準備とか力になれる。明日またこの場所で会えるか?その時に返事を聞かせてほしい。」  そう言い終えると、幽霊はゆっくりと細い路地の方へと進んでいった。しかし、一瞬立ち止まりこちらを向いた。  「そうだ、いい忘れたけど俺の名前は零。君は?」    「こ、光太です。」    「そうか、じゃあ光太、明日午後十時に待ってるからね!」  零はそのまま細い路地に消えていった。光太は夢か現実か確かめるため、目を擦った。現実だー。  どうなっているんだ。幽霊と遭遇しただけでも信じられないことなのに、一緒にレストランをやろうと誘われた。幽霊とゴーストレストランをやるなんて、そもそもややこしすぎる。そんなことを考えながら自宅に着いた時には、午前0時を回っていた。
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