9.配達員「零」

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9.配達員「零」

 次の日、学校が終わると光太と零はキッチンに集まり、この日の仕込みをしていた。そして、光太はハンバーグの生地をこねながら零に尋ねた。  「今日は零が配達の番だけど、大丈夫なの?少し足とか透けてるじゃん。幽霊ってバレたらヤバいんじゃない?」  「たしかに今は透けてるけど、透かないようにすることもできるんだよ。」  「え!じゃあ普通の人間みたいな見た目にもなれるってこと?!」  「そうそう、見てて、、」  そう言うと零は、しばらく目をつむっていた。すると、みるみるうちに足の透明感がなくなり、リアルな足になっていった。光太が驚き、唖然としていると零は笑っていた。  「さ、早く準備しないと開店時間が来てしまうよ!」  零にせかされると光太は我に返った。  「しかし、幽霊ってすごいな~。」  光太は思わず呟いていた。  営業2日目は、初日ほどではないが2件の注文が入った。1件はOL風の女性からで、もう1件も若い女性からの注文だった。  SNSで注文を受け付け、料理の写真や調理風景を投稿していたため、若い年齢層からの注文が多かった。そして、営業2日目に投稿した写真にコメントが投稿された。  「クリームパスタ美味しかったです!」  コメントを見た光太と零は小さくガッツポーズをした。実店舗を持たない2人のお店では、このようなコメントがとても励みになると実感したのだった。  洋食亭ゴーストはその後も毎日数件の注文が入り、光太と零はわずか3時間の営業時間にも関わらず、忙しく、充実した日々を過ごしていた。営業開始から1カ月ほど経ったある日、注文者の住所を見た光太は驚いた。それは実家からの注文だった。  「ハンバーグとクリームパスタを1つずつ。あとコーヒーも2つお願いします。」  と書かれていた。光太の両親はSNSをやっていないはずだった。注文してきたということは、勘づかれたのかもしれない。もしバレたらレストランを続けられないかもしれないー。光太の頭の中では様々な不安が駆け巡った。  「でもさ、行くしかないだろ、お客さんなんだから。俺が行ってくるよ。」  零はそう言うと、早速調理に取りかかっていた。たしかにそうだ。まさか親から注文が入ることは想定していなかったが、今はお客様なんだ。光太も零に続くようにして調理に取りかかった。  料理が完成すると、零は自転車に跨がってこちらを向いた。すると、不安そうに佇む光太に向かって「大丈夫だ、うまくやってくる。」そう言うと、手を降りながら自転車をこぎ出した。  「ピンポーン」零は光太の実家のインターホンを鳴らした。2階建ての一軒家で、リビングのみ明かりがついていた。しばらくすると、「はーい!」という声とともに玄関ドアが開いた。そこには光太の母親である美和が現れた。  「ご注文の品をお届けに参りました。」  「ありがとうございます。お代はいくらですか?」  「2600円です。」  美和は一度リビングに戻ると、現金2600円と小さな紙袋を持ってきた。  「これ、よかったら食べて下さい。」  美和から渡された紙袋には、ドーナツが2個入っていた。  「ありがとうございます!戻ったら美味しくいただきます。またよろしくお願いします。」  零は一礼すると、自転車に跨がり来た道を戻っていった。クッチーナに戻ると、零は光太に紙袋を渡した。  「光太の母さんがくれたよ。ドーナツ好きなのか?」  光太は紙袋を開けると、昔から大好きだったドーナツが2個入っていた。そして、角の方に小さいメモ用紙が折り畳んで入っていた。  "レストランやってるんだってね。最近の光太はイキイキしているから、陰ながら応援してるよ。体には気を付けてね。"  光太は胸が熱くなった。直接言ってもらうよりも、両親の気持ちが強く伝わってくる。きっと自分の高校生という立場を考慮してくれたのだろう。両親からの陰ながらの応援メッセージは、光太の胸に強く刻み込まれた。  その頃、広と美和はテイクアウトしたハンバーグとクリームパスタに舌鼓していた。ハンバーグのフワフワな食感に溢れる肉汁。以前より美味しさを増しているが、一口で光太が作ったものだとわかる。「うまい」広は一言そう言うと、感心しながら食べ進めた。クリームパスタを食べた美和も絶妙な麺の茹で加減、濃厚でクリーミーなソースを絶賛した。  「あの子達、本気で料理作ってるのね。光太が何かにここまで夢中になることなんて、なかったものね。」  美和の目には光るものがあった。  「そうだな。親としては一生懸命頑張る息子を応援するしかないな。陰でしっかり見守ってやって、何かあったら相談にのってやる。それくらいでいいのかもしれないな。」  広は光太が着実に成長していると感じた。ここまできたら、好きなことをやらせてあげようー。二人は温かいコーヒーを飲みながら、ゆっくりと語り合った。
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