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「あんまり固く考える必要ないと思うけどなあ」
少しあきれたように首をかしげて、餃子の具を入れていた大きなボウルをスポンジでこする隆宣さん。
どうも俺は頭でっかちらしい。隆宣さんに背中を押されることも多い。でも晴輝とのことはちゃんとしたいから、転職しないままの方がいろいろとよかったんじゃないか、とか考えたりもする。
「明日ハルに気分よく仕事してもらうためにも、このまま一緒に帰って部屋でいちゃつけばいいじゃん。デザートってことで」
いかにも経験豊富そうにさらっと言うくせに、隆宣さんは翔一郎さんを知って以来、リアルに知りあう前からずっと、他の相手からのアプローチはみんな蹴ってきたっていうんだから、徹底してるよな。
「なに、俺の話してた?」
いつの間にか、背後に晴輝がいた。洗い物の水音のせいで、全然気づかなかった。
「い、いや、別に」
「ありがとう、もういいよ」
少しあわてて言った俺に、タオルで手を拭きながら隆宣さんが言う。
「じゃ、帰ろうか。俺眠くなってきちゃった」
あくびをして、晴輝が子供みたいに目をこする。
タクシーを呼んでもらい、俺達はまだ餃子のにおいがこもるような二人の新居を後にした。
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