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常夜灯だけの暗がりで、晴輝の瞳からほろりとこぼれた涙が鈍く光りながら頬を流れ落ちる。俺はそれを、動けずに横になったままじっと見つめた。
「歌うことを仕事にできて、いつもそばに静也がいてくれて……。幸せは味わえる時に味わっとかないと思って」
俺は起き上がり、そっと腕を伸ばして晴輝の涙を指で拭った。ほのかなあたたかさが、俺の指を流れ落ちながら冷えていく。それがなんだか、すごく哀しい。
「……だから、それを信じてないって言うんだろ……」
乱暴に晴輝を抱き寄せた。ベッドがきしむ。せつなさに、晴輝を抱きしめる腕に力がこもる。
「ごめん」
次々とこぼれ落ち、俺の肩を濡らす涙。
なにが晴輝を、こんなふうにしたんだろう。明るく周りを幸せにしながら、晴輝自身は暗く重いものを抱えて、いつこの幸せを失うのかと思いながら生きているのか。そんな晴輝に、俺はなにができる?
「信じないことには始まらない、って言ったのはお前じゃん。なのに、なんで……」
泣きそうになって、言葉が続かなかった。あの時の晴輝の笑顔。笑顔を見てうずいた胸。ライブハウスの照明に照らされた、テーブルの反射。そんな光景と感情を一緒くたに思い出す。
あれは、いろんなことを信じられない自分に言い聞かせる言葉だったんだろうか。俺が晴輝に似たようなことを言うのは、これで二度目だ。あの時、俺の言葉で吹っ切れたみたいだって言われたほどだったのに、それでもまだダメなのか……?
ごめん、と涙声で繰り返して、晴輝は俺の肩にきつく顔を埋める。俺はただしばらく、晴輝のぬくもりや呼吸、そういうものを感じながら抱きしめていることしかできなかった。
「信じてくれよ、俺を」
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