その3

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 晴輝が話そうとしない、おそらくは家族とのことでできた過去の傷は、あまりに深いらしい。暗がりで赤々と口を開いているようにも思えるその傷をふさぎたくて、俺は晴輝の背中を何度も優しく撫でた。  晴輝は強いな、と俺は思ってた。でもたぶんそれは違う。笑顔が仮面だったみたいに、信じて裏切られて、傷だらけの心を覆うための壁が、強いと思わせてただけなんだろう。  そして俺には、それを見抜ける力がなかった。晴輝と出会ったばかりの頃と、同じことを繰り返してる。情けない。 「ごめん、ごめんな、静也……」  泣きじゃくる晴輝。晴輝自身、その傷をどうしたらいいのか分からずに苦しんでいるようだった。  謝るのは、信じるのは無理だと言われているような気もして、呆然としてしまう。だけどとにかく俺は、晴輝を大事にしてやりたい。そう思っていることを、分かって欲しい。 「もう寝よう、晴輝」  俺はティッシュで晴輝の濡れた顔を拭いた。何度も髪を撫で、そっと唇に軽いキスを落とす。かすかに、涙の味。 「がっかりしたろ、帰ってもいいよ」  うつむき、つぶやく晴輝。  しおれた姿。少し乱れた髪、白い肌。大きめのTシャツから出ている細い手足。今にも消えてしまいそうで、こんな晴輝を一人にできるわけがない。 「帰るわけないだろ、ほら寝よう」  俺は晴輝を寝かせ、腕枕した。あんまり力を入れたら、壊れてしまいそうな華奢な身体。生まれたての赤ん坊を抱くように、包む。髪を撫で、背中を撫でて、晴輝のぬくもりを味わう。 「優しいね」  ぽつん、と置くようにつぶやいて、ちょっと遠慮がちに俺の肩に頭を預ける。泣き腫らした瞳。柔らかな髪の感触。愛しさをかき立てられる。 「愛してるんだから、当たり前だろ」  こんなこと、恥ずかしくてめったに言わない。でも今ちゃんと言っとかないと、いつ言うんだって感じだ。言葉が時にはなんの役にも立たないことを俺は知ってるけど、言わないと伝わらないから。
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