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昼近くまで二人でベッドで過ごした後、さすがにメシを作る気にはなれなくて。俺達はシャワーを浴び、ランチがてら買い出しに出た。
ファッションをモノトーンでまとめることが多い翔一郎さんは、今日も白地にワンポイントが入ったTシャツに黒のパンツをあわせて、黒のジャケットを着ている。ちょっと近所に行く時でもわりときちんとした格好をするのは、見習いたいところだ。俺はと言えば、参加したツアーのグッズの黒Tシャツにジーンズ。俺が真似をして、スニーカーは同じメーカーの色違いだ。
ランチは、引っ越してきた初日に行ってうまかったイタリアンでピザ。なんか視線を感じるな、と思ったら、ハルのファンだという女の子達が帰り際に声をかけてきた。普段から仲がいいんですね、なんて言うから、翔一郎さんが気さくにこれからハルと会うよ、と言ったら大興奮。俺一人だったら、ああどうも程度だけど、翔一郎さんは人がいい。
「なに作るかは決めてるの?」
店を出ると、翔一郎さんが楽しそうに訊いてきた。若い子に話しかけられて喜ぶタイプじゃないから、単純にハル達が来るのが楽しみなのと、さっき一杯だけ飲んだワインのせいもあるだろう。
「サラダと唐揚げは作ろうって決めてますけど、翔一郎さんはなにか食べたいものあります?」
「俺、餃子とチャーハンが食べたいな」
餃子は思いついて即却下したメニューだったから、ちょっと驚いた。翔一郎さんにとっても、嫌な記憶を思い出させるようになってるんじゃないかと、勝手に思ってた。
「じゃ、餃子パーティーにしましょう。ホットプレートで大量に焼きながら飲みましょう」
「お、いいね。包むの手伝うよ」
そんな会話を交わしながら、肉は商店街の肉屋に行って買った。金髪で長髪の、料理なんてしそうにないルックスのせいもあるのか、もうすっかり覚えられている。あとはスーパーに行って、食材と酒をいろいろ買うつもりだ。
「楽しいね。さっき肉屋さん、あららお父さん若いのねえ、だって」
翔一郎さんとこうして買い物するのは初めてじゃないのに、カートを押す俺についてきながら、翔一郎さんはうれしそうに笑った。
ああ、これからもずっとこの人とこうやって生きていけるんだなあ、とふいに泣きそうになる。
「やっぱりそう見えますよね。餃子を包むの、あの二人にも手伝ってもらいましょうか」
さすがに今日は餃子の皮まで作るのは無理だから、いくつもまとめて餃子の皮を買い物かごに入れながら、俺は言った。
「そうだね、きっと面白がってくれるよ」
目尻の皺をくしゃくしゃにして笑う。愛しくて、抱きしめたくなる。せめて手を繋いで歩けるような世の中になればいいのに。この人は俺の恋人だって、堂々と言いたい。
やっぱり、同棲を機にペアリングを買って、ウザいヤツが近づいてこないようにしよう。前から思っていたことを、改めて決意する。翔一郎さんはギタリストだから、せっかく指輪が似合いそうな手でも、つけてくれないだろうけど。
「どうかした?」
「いえ、なんでも。少し急ぎましょうか」
相変わらずのポーカーフェイスで言い、俺は酒のコーナーへと向かった。
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