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その2
夕方、晴輝の住むマンションの最寄駅で合流して、駅前のスーパーで酒やつまみなんかを買ってから、翔一郎さんと隆宣さんの新居にタクシーで向かう。二人の家は晴輝とは違う沿線だけど、直線距離だと車の方が近くて楽だ。
「静也は隆宣の料理をちゃんと食べるのは初めてだっけ?」
「そうだね、ケーキは差し入れで何度か食べたかな。うまくてヤバかった」
あの二人がつきあい始めて約一年、ということは俺達もつきあい始めてもうすぐ一年。ついにと言うかとうとうと言うか、二人は同棲を始めた。二人は晴輝のツアーのサポートやレコーディングにも参加してくれていて、普段からつきあいがあるから、引っ越し祝いということで新居に遊びに行くことになった。
俺は今、晴輝の所属事務所でマネージャー見習いみたいな立場で働いている。送迎も仕事のうちなのを利用して、きのう晴輝がセカンドアルバムのプロモーションでラジオに出た帰り、二人でデパートに行って一緒に引っ越し祝いのプレゼントを選んだ。翔一郎さんが紅茶好きだから、紅茶とペアのカップ&ソーサーのセットと、料理する人には有名らしいメーカーの鍋にした。
一緒に住むことにしたと隆宣さんから聞いた時、俺は思わず自分達の今後を意識したけど、晴輝はどうなんだろう。今のところ、晴輝の方からそういう話は出てこない。でも今の俺の立場からしても、一緒に住もうなんてとても言える状況じゃない。
晴輝は俺が初めての恋人だ。それに全盲のシンガーソングライターってことでブレイクした、有名人だ。だからいろんな意味で、俺は晴輝を傷つけないように慎重にしっかりとつきあっていきたいと思ってる。実はきのう仕事帰りに一緒にデパートに行くのも、最初はやめようと言った。今の立場に浮かれるつもりはない。
「明日、俺のスケジュールどうなってるっけ?」
「昼からレコード会社で、何本か取材があるね」
晴輝を送迎して現場にもついてる関係で、晴輝の予定は常にチェックして、頭に入っている。警備会社にいた頃はまあそれなりに仕事してたけど、今は違う。
「じゃあ、今日はゆっくりできるね」
「でも飲み過ぎるなよ? 二日酔いで取材とかダメだろ」
晴輝は俺の方に顔を向け、ちょっと不満そうな表情をした。今日はプライベートなのもあって、サングラスはかけていない。色素の薄い茶髪が、日光に透けるようだ。
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