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「片づけ手伝いますよ」
「さすが、マネージャー見習いは気がきくね」
料理が盛られていた皿はみんなきれいに空っぽになっていて、なんだか幸せそのものがテーブルに広がっているような気がした。これからもこのテーブルには、隆宣さんが翔一郎さんのためにせっせと作るうまいもんが並ぶはずだ。
「楽しかったねえ」
「うん、ホントに。ごちそうさまでした」
翔一郎さんと晴輝が笑顔で言いあう。俺は食器をまとめて、シンクに持っていった。隆宣さんと並んで、洗い物を手伝う。
「……抱きたくなったんじゃない?」
こそっと言うと、隆宣さんは片頬で笑った。
「実は今朝、さんざんしたんだけどね」
金色の長髪が肩で揺れる。後に続くのは、「でも今夜もしようかな」ってセリフだろう。
「静也君はどうなの? あんなにはしゃいでるの見たら、かわいくてたまらなくなるんじゃないの?」
年下の隆宣さんから見ても、晴輝はかわいく見えるらしい。ひそひそしゃべる俺達の背後では、翔一郎さんがテーブルを拭きながら晴輝と話している。俺達の内緒話に気づく気配はない。
「それはまあ。でも今日は、晴輝送ったら自分ちに帰ろうかなと」
晴輝の事務所に転職して数ヶ月。俺は仕事とプライベートの切り分けに悩んでいた。この仕事には定時なんてないし、アーティスト自身とその才能が売り物だから、晴輝のケアも仕事の一つどころか、重要なウェイトを占める。
今日はそもそも休みだから、別にこのまま晴輝のうちに泊まってもいいだろうとも思う。たぶん晴輝もそのつもりだろう。でもそうやってるうちについついルーズになっちまって、公私混同でぐだぐだになって晴輝自身にもよくないことになっちまったら、と怖い。
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