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幼なじみが怖すぎる
俺は健全な男子高校生である。
休み時間は友達と馬鹿騒ぎし、テストの点数では1点で一喜一憂し、ただ日々を浪費していく。
無論、彼女が欲しいのも当たり前の思考だろう。
かわいくて優しくて、一緒に居るだけで幸せになれる、そんな子と付き合いたいなあ。
そんな純粋な希望は叶わないものだと、俺はずっと前から悟っていたのかもしれない。
悟った上で、理性では認めたくなくて抗っていたのかもしれない。
それも、今日までなのか。
目前に迫る美形の男二人をぼーっと見つめながらそう思う。
「透也は、ほんとに彼女ほしいの…?」
「オレらを置いて、か…?」
「いや置いていくも何も一緒じゃないだろ、立ち位置」
俺は透也、高校二年生。
目の前のイケメンは俺の幼なじみである、シロもとい白都とクロもとい黒雨。
シロは甘いマスクに柔らかい声色、誰にでも優しくて皆を平等に扱う、通称『学園の王子』。
クロはキリッとした切れ長の目が特徴的なサボり魔で、喧嘩の噂が絶えない不良。
二人の、皆に対する態度を思い返して、改めて目の前の男たちを見る。
シロは目が据わってるし、心底楽しくなさそうな顔に対して、クロは目尻が下がり、困り眉の柴犬を連想させる顔をしている。
…二人の本当の性格は全く違うことをみんなが知ったら卒倒するよな…。
そろそろ現状を説明しよう。
俺は昔からずっと、二人がそばに居たせいか、恋愛というものにいい思い出がない。
好きな女の子はみんなどちらかを好きになって、二人が『透也と遊ぶから』とかいうふざけた理由で断ると俺に憎悪が向けられる。
好きな女の子から恨まれるのは辛かった。
二人といるのは楽しいし嫌じゃないんだけど、少し、ほんのすこーし距離近くね?くらいは思ってた。
俺に彼女を作らせないのも、まだ恋愛より友情に時間使いたいのかなーとか思ってたけど。
ちょっと脱線したな。
わかりやすく言うと、
俺氏『彼女ほしいな』
↓
二人『は?』
↓
友達『おっ、なら合コンにでも行く?』
↓
二人『は??』
↓
俺氏『おーいいな』
↓
二人『透也ちょっと来い』
…という訳で、普段使われない北校舎に連れてくられたのである。
「…透也さぁ、僕達と一緒いるの楽しくないの?」
シロの低い声に怯むが、言い返す。
「そりゃ、楽しいけど…友達と過ごすのと恋人と過ごすのと、やっぱ違うだろ」
「どう違うの?」
「え、そりゃあアレだろ…なんか、違うだろ」
「語彙力ない透也かわいいね、童貞だもんね」
「関係ないだろそれ!!!」
「あるよ。女に対する理想高すぎ、実際に付き合ったら幻滅するよ、傷つくよ透也。僕らはそんな透也を見るのは耐えられない」
くそう言わせておけば。
理想高いのは自分でも分かってるよ!でも実際に見るまでなかなかその理想を壊すのは難しいだろ!!
「透也が、オレらに黙ってろって言うならオレらは黙るよ…透也には嫌われたくない…だけど、恋人つくられるのも嫌だ…」
クロの弱った声に俺は弱いんだからそんなこと言うな。
クロはなんだか昔から、俺の言うことは全部従ってくれる。しかもどんな内容でも『透也が言うなら』って理由で俺についてきてくれる。
そんなクロは好きだけど、罪悪感がすごい。
「シロ、クロ、お前らも恋人作ればいいじゃん…お前らなんかすぐ作れるだろ、トリプルデートでもしようぜ」
俺が提案するとクロはぐっと言葉を飲み込んだが、シロは「はぁ?」と眉を釣り上げる。
「なにそれ、やっぱり透也は可愛いね、トリプルデートなんて漫画の世界の話だよ?そんな事したら女は全員透也の所にいって修羅場になるよ?」
「いやいやおかしいだろ、シロもクロもいるのになんで俺に女の子が集まるんだよ」
なんだかさっきからシロの目の焦点が合ってない気がする。こわい。
気付かれないようにちらっと腕時計を見ると、もうすぐ昼休みが終わろうとしていた。
もう少し反抗したかったが、授業に遅れるのは嫌だな…。
俺は渋々両手を上げて降参のポーズをとった。
「わかったわかった、合コンには行かない。さっさと教室戻ろうぜ、昼休み終わる」
クロはササッと俺から身を引いたが、シロは俺の目を覗き込んだ。
「…ほんと?」
「まじまじ。そんな疑うなよ」
「……次言う時は覚悟しとけよ」
「なんだよ、言ったら何すんだよ」
「は?監禁するだけ」
「はぁ!?!?」
有り得ない。こいつは倫理観ってもんがないのか。友達が恋人つくったから監禁とか、どういう理論でいけばたどり着くんだ。
「もういいや、言い返すのも疲れた。クロ行こうぜ」
「…おう」
「待ってよ透也」
三人並んで、教室のある南校舎へ向かう。
向かう途中、数人の女子生徒とすれ違った。
北校舎に数個だけあるまだ使われている教室へ行くのだろう。
「あっみて、白都くん!お〜い!!」
「おーい♪」
優雅に手を振るシロ。
女の子たちはきゃー、と言いながら早足で北校舎へ歩いていってしまった。
先程まで据わっていた目は、今は昼間の日差しを受けてきらきらと輝いている。
変わり身早すぎだろ、怖。
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