街の女神様

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「そうか、そういうことか……」 「え、えっと、ごめんなさ…」 「はあ、良かったです、具合悪いわけじゃなくて」 「え……?えっと…イライラしてないんですか?」 「イライラ?何でですか。誰でも初めてやることには緊張するに決まってるじゃないですか」  店員が驚いたような顔をする。 「俺も今日から就職先で仕事なんです。でも、緊張で心臓がバクバクですよ。どんな人がいるかも分からない。どんな仕事を任されるのかも分からない。そういう緊張と不安で、正直行きたくないですよ。でも、人間って生き物は、何事もやってみなくちゃ分からないんです」 「やってみなくちゃ…分からない……」 「そうです。だから店員さん、安心してください。誰だって一度は緊張して、上手くいかないんです。でもその積み重ねで、色んなことを学んで成長していく。それが人間なんですよ」  店員は「……ありがとうございます」と笑顔で返した。 「……!」 「えっと…すみません。もう一度、買いたいもの教えていただけますか?」 「あ、はい」  店員は慧の注文したパンを丁寧に取っていく。 「今日はすみませんでした。そして、ありがとうございます。その…勇気づけてくれて」 「勇気づけるなんてそんな。俺は何もしてないですよ」  店員は微笑んだ。その姿は、まるで女神のようだった。 「では、また来ます。それじゃあ」 「はい、行ってらっしゃい」  慧は店を出る。 「店員さん、可愛かったなぁ……俺が告白したら…って何考えてるんだ、俺は」  これが『一目惚れ』ってやつか。
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