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あたし、転生しちゃった…?!
「だいじょぶ?濡れなかった?」
自転車の前カゴから、そーっとあたしを抱っこしたその人は、マンションのエントランスに入ってボタンを押して、エレベーターに乗る。
あたしたちの他には誰も乗ってない。
「ふー、助かった」
ほっとしたような声が聞こえた。
15階建てマンションの12階で止まると
「よかったな、みっかんなくて」
あたしを包みなおして、エレベーターから降りる。
雨がザーザー降る中、その人は軽く鼻歌を歌いながら歩いて立ち止まり、カチャ、っとドアを開けて、靴を脱いでスリッパに履き替えた。
顔が隠れるくらい包まれてるから、部屋の様子はわからないけど、新築っぽい匂いと、たぶんこの人の匂い。…いい匂い、あたしの好きな香り。
あ、この香り知ってる。
カフェにときどきひとりで来るお客さんで、細身だけどがっしりしていそうな、いつもヘッドフォンを離さない、黒マスクの人の匂いに似てる!
気になる憧れのお客さんで、姿が見えると、あっ!て心がザワついて、ドキドキしながらお水持ってオーダー取ってた。
甘めのカフェラテが好きな彼が来ると、そわそわする気持ちを落ち着かせるために、端っこで深呼吸してから出てたっけ。
でも、まさか本人ってことないよね。
「ごめんな、ミイちゃんお待たせ、お腹すいてない?っつっても牛乳くらいしかねぇけど…」
ふわっふわのバスタオルで、優しく拭いてくれてる。
んー、どうも様子がおかしい。
あたし自身の大きさがきっと、変。
ここが広いマンションだとしても、お部屋広すぎるし、窓とかやたら大きく見えるのは、あたしが小さくなったからだよね…
だいたい、自転車の前カゴに入った時点でおかしいとは思ってたけど…あたし、今どうなってるの?
それに牛乳って。
お腹すいてたらご飯じゃないの?
何もかもがおかしいよ、鏡見せて!
と思ったとき、もういいかな、って聞こえてバスタオル外されて…やっと周りが見えた。
「ミイちゃん」
抱き上げられて
「可愛いな〜」
じーっと見つめられて、鼻こすりつけてきて、額の辺りにキスされた…!
けど、近すぎて顔わかんない。
「んふふ、みっかんなくてほんとラッキー、ここ、ペット不可だからさ、悪ぃけど鳴かないでね、頼むよ」
優しく抱きしめられてる。
…ペット不可?
…てことは、あたし、何かの動物になったってこと?
どうなってるの、教えて!って言ったつもりが
「みゃあ」
…えええええ?!今のなに?びっくりしてもう一度話そうとしても
「みゃあ〜」
ウソでしょ…あたし、ネコになっちゃったの?
…そんなぁ…なんでよぉ…
「みゃ、ぁ…」
悲しすぎて沈んだ声で鳴くと
「だから、シーってミイちゃん」
あったかいミルク持ってきてくれた。
ありがとう、と伝えたくても言えないから、黙ってお皿のミルクをなめてる。
「閉店にもびっくりだけど、店の前にミイちゃんいんじゃん、絵から抜け出たのかと思ったよ、そっくりなんだもん」
ミルクなめてるあたしの横でしゃべってるのは、間違いなく、憧れの彼だと思う。
「オレ、フミヤ、歴史の史に、志賀直哉の哉って書くの、ってミイちゃんに漢字説明してる俺って」
笑い声も彼にそっくり!
確認したくて、ドキドキしながら顔上げたら…間違いない!憧れの人!!
うれしいのと驚いたのとで、みゃぁぁ〜って言うと
「そっかそっか、会えてうれしいって思ってくれてんのかな、オレもだよ、可愛いミイちゃん」
憧れの史哉さんだと認識したら、呼んでるのはネコのミイ、とわかってても、あたしの名前(美衣)呼ばれてる気がして、ドキドキする。
しかも史哉さん、やたらスキンシップしたいらしく、キスされたときは史哉さんの膝の上だったし、今もまた、抱っこされてる。
こんなの…美衣だったら心臓持たないっ…
ネコになっちゃった役得?
ていっても、これからどうなるの…??
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