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スラリとした長身に気鬱漂う目つき。深めに被った黒いハンチングは空を遠ざけるように。ダークグレーのコートは身を閉じ込めるように足下まで覆っている。
風に晒された新聞紙が音を立てる柵の外では、子供達がザレへ石を投げつけんとしていた。
「悪魔の手先は外に出てくんなーっ!」
「気味悪いぞ早くかえれー!」
「これでも喰らえっ!」
「あっははは!」
揶揄い声が響いては、体に当たった石がトスッと転げていく。しかしザレが取り合うことはない。これが彼にとっての日常なのだ。
そして面白半分に続けた子供達はやがてどこかへ走り去り、入れ替わるように一匹の猫が近寄っていった。
「……心配してくれてるのかトゥマ。お前は優しいな」
擦り寄ったトゥマは、綺麗に前足を揃えて尾を巻くとザレを見上げた。そんなトゥマの頭を一撫でした彼は、木々の隙間からボンヤリと時を示す時計台を見やる。
「こんな時間だったか……ご飯の時間だな、さぁ行こう」
静かに歩き出すザレの隣にピタリとつくトゥマであったが……途中、不意に立ち止まってしまう。
「どうした、鼠か?」
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