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scene 1 ー呪われた血族ー
一年の大半を浅い霧に覆われたジェビチエ公国は西欧に位置する小国だ。近年は、蒸気機関の発達に伴い人々の生活水準が徐々に上がりつつある。しかし、そんな恩恵から置き去りにされた場所は少なくなかった。
ここミラーシヴィレッジは、未舗装の道路と売物件が昔から目立つ。他と比べていつまでも様相を変えぬ原因は、フェリス公営墓地の存在だった。
昼夜を問わず縄張りを主張する烏たち。夜になると聞こえてくる野犬の咆哮。数多の墓標が並ぶ広い敷地の周囲には、腰丈ほどの煉瓦塀とその上に突き立つ鉄柵。これを見た者にはしばしば、世界から隔離されたような光景に映るだろう。
界隈の住民はここを毛嫌いしている。ただ不気味だからというわけではない。ここは所謂ジョンドウたちの埋葬場所。忌み嫌われる要素としては十分だったのだ。
そしてここの墓掘りであるザレもまた、嫌悪される対象であった。
人々は言う。アレは呪われた血族だとーー
晴れた日も霧や木陰のせいで仄暗い印象を保つ墓地に、土を掘る虚無的な音が響く。そこには包帯を巻きつけた手でスコップを握り、いつものように墓を掘るザレの姿があった。
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