拾われた猫と拾ったお兄さん

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家でご飯を食べる事は殆どないと思うって言われたから、そこは普通に了承した。私、料理なんて居酒屋のメニューしか作れないし。 洗濯は各自でやる、掃除は部屋は自分でやって、リビングとかお風呂とかトイレ、共有スペースってやつは、家賃代わりに私がやるって申し出た。 「仕事だけど、ハルには基本的に俺の補佐をしてもらうから。書類整理とか事務処理とか、依頼者が来たらお茶出すとか。俺が休みの日は勿論ハルも休みだけど、出来る限り最低でも週に1日位は休みあげられるようにする。繁忙期は労基違反なんてレベルじゃないブラックな仕事だけど本当に大丈夫?」 「大丈夫。分かった。じゃあ、テレビとかでよく見るような、推理とか尾行とか、そういうのは私はやらなくていいってこと?」 「やらなくていいっていうか、出来ないだろ。ただ、どうしても女じゃなきゃ話せないとか、女じゃないと行けない場所あったりした時は、ハルにも手伝ってもらう。」 「了解!……ねぇ、陽樹はなんで私みたいな身元不明の小娘拾ったの?」 純粋に、拾う神ってこの人だって思ったけど、普通声かけないと思うし、何者だよって感じじゃない?だから何でかなって思ったんだ。 「身元不明って。何でだろうな、猫の手だと思ったんだよ多分。忙しすぎて。」 「猫かぁ。猫みたいって言われた事は何度もあるけど、猫の手って言われたのは初めて。」 ハルは何考えてるか分からない、とか。 自由気ままに生きてて羨ましい、とか。 悩みなさそうだし気まぐれだよね、とか。 そう言われてしまえばそうだね、って感じだし、そんな事ないけど、って事もあったけど別にさほど悩む事もしなかったし。 「じゃ、俺はこれから出かけるからあとは好きにしてて。ハル一文無しだろ、給料から引いとくから、とりあえずこれ、前払いって事でやるから。」 どこに行くの、っては聞かなかった。プライベートは詮索しない、だから。 前払いって貰った3万円をお財布に入れて、ボストンバッグから服を出してクローゼットにしまって、何故か追い出された時に持たされたスーツもなんとなく、ハンガーに掛けて。 こうして私と探偵さんの奇妙な生活が、始まった。
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