しっぽの志歩さん

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 しっぽ。  しっぽさん。  志歩(しほ)さん。  オス猫なのかメス猫なのかは不明だが、男よりは女の方がいいから、志歩さんと呼ぶことにした。  志歩さんは朝、たいてい、俺の布団に潜り込んでいる。足元にいることが多い。  一度誤って踏んでしまって、のたうち回っていたことがある。骨が折れていないか確認したところ、どこも悪くないようでホッとした。  万が一、大丈夫じゃなかったら、動物病院にでも連れて行けばいいのだろうか。微妙なところだ。  平日の早朝、お仕事の時間である。  銀行員は早くに出勤して開店準備を行う。  支店が開くのは8時ちょうど。  しかし、役席の俺は支店の鍵を開けなければ ならないから、7時半には支店近くのカフェで待機している。  朝食もカフェでとっている。  ハムとチーズのパニーニ、ブラックコーヒー、サラダのセット。たいていこのメニューだ。  俺は腕時計を見る。7時50分。そろそろ支店の裏口に向かわなければ。  そして、袖をまくる。  手首には志歩さんが巻き付いている。 「志歩さん、頼むから、大人しくしててくれよ……」  そう、しっぽの志歩さんは家で留守番していてくれなかった。  会社へ向かう俺から、頑として離れなかったのだ。猫ってツンデレなイメージがあったけど、甘えん坊な猫もいるんだな。    この状況は非常にまずい。営業室内は当然のことながら生き物の持ち込みは禁止だ。  誰にも見つからないように、苦肉の策で、ワイシャツの長袖の下に隠したのだった。
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