しっぽの志歩さん

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 8時40分、開店前の朝礼がはじまる。 「えーと、本日ですが。支店長は13時からエリア会議で不在です。何かあったら私に言ってください。それから、夕方に警報の点検が入ります……」  支店長と、俺と、女性行員3名。それからパートさん4名。これが店頭サービス課のメンバーだ。渉外担当および融資担当もいるが、彼らは2階で仕事をしている。 「本日も1日、よろしくお願いします」  シャッターが開いて、そこは戦場となる。  3月10日、税金納付の締め切り日。番号札を引いて待ち構えるお客さま達。  少人数で運営しているため、待ち時間はどんどん伸びる。それにともない、クレームも増える。  クレームが来れば俺が対応しなくてはならない。ひとまずお客さまの心ゆくまで話を聞いて、不快にさせたことに対してお詫びする。  だいぶ慣れてきたものの、頭ごなしに怒鳴られれば、それなりに落ち込むし気が滅入る。 「新田さん、差し押さえです。確認してください」 「わかった。……はい、じゃあすぐ、この番号で預金止めて」 「承知しました」  差し押さえに、相続、大口現金取引の面談、トラブル対応、休む暇もない。 「新田さん、ひとまず止めましたが……。あの、それ、何です?」 「え?」  女性行員の河野(こうの)さんが指差したのは、俺の左手首。 「あ。あぁあ! これ、これねっ」  志歩さん。  知らぬうちに、袖口から飛び出している。  俺は慌てて志歩さんを押し込んだ。 「えっとね。今流行ってるの、知らない? 猫のしっぽ型アクセサリー? みたいな」  河野さん、ゴミを見るような目で俺を見るのはやめてくれ。  クレーム処理より何より、今この瞬間のダメージが大きかった。
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