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そうやって、俺と志歩さんとの同居生活は1ヶ月ほど続いた。
今や志歩さんは俺のスイートハニーみたいな存在になっていた。気持ち悪い言い回しだけど許してくれ。別に本当の彼女ってわけじゃないから。例えるなら、と言う意味だ。
自宅にて、足元でじゃれる志歩さんに目を配りつ洗濯機をまわしていると、幸せな気持ちになる。
ただただ自分のために稼いで、疲れて帰ってきて、出来合いのメシを食べて、晩酌をして寝る。そのつまらないルーティンの中に、しっぽの志歩さんが現れた。
志歩さんが部屋の中をうろうろと動き回っているのを見るだけでも楽しい。
今まで、適当に、流されるままに何となく生きてきた俺だが、志歩さんと一緒にいる「俺」はちょっといい感じだと思う。
もしかしたら志歩さんは、冴えない俺を憐れんだ、神様のご褒美なのではないだろうか。
そう、幸せを噛み締めていた矢先のことだった。
ーーピンポーン。チャイムが鳴った。
ふざけるな、今、何時だと思ってるんだ。夜の10時だぞ。
こんな夜遅くに人の家のインターフォンを鳴らすなんて、非常識きわまりない。
宅急便にしては遅すぎるし、怪しい奴じゃないだろうな、と警戒してドアに近付く。
突然、音を立ててドアが開いた。
「おわっ」
嘘だろ、俺、鍵はちゃんと閉めたよな。
勝手に開いた扉の先には、ひとりの女が立っていた。
不自然なほど白い肌に、鮮やかな口紅を差した艶女。
日本髪にかんざしを刺し、吊り目がちの美しい双眸を細めている。赤茶色の和服には波に御所車と菊文様が描かれて、女の透き通った肌をより際立たせていた。
「こんばんは。ここに、アタシの娘はいませんか」
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