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アテナ
朝日の中に雪を頂いた山脈が横たわっていた。ダイヤモンドダストが朝の光を受けて煌めいている。山脈の向こうで隣国、フチン共和国の大軍が軍事演習を行っていて、その緊張感が空気中の水分を凍らせているようだった。
「マリア、急いで。おじいちゃんが待っているわよ」
ユウケイ民主国の首都セントバーグの隣町、ミールの古い商店街に住むアテナは、4歳の娘、マリアを急かした。両親に娘を預けたら夫が先に行っている市場に行かなければならない。彼はそこで水産物を扱っている。結婚してからアテナも彼を手伝っていた。
「ママ、待って。キティーちゃんがひとり足りないの」
キティーちゃんは、マリアが大好きな日本製のぬいぐるみだ。彼女は大小合わせて6つのキティーちゃんを持っており、それをリュックに詰めてアテナの両親の家に行くのが日課だった。
「あった!」
声がするとほどなく、自分の身体と同じようなサイズのリュックを引きずったマリアが階段を下りてきた。アテナはそれを背負わせてやると、彼女の手を引いて石畳の通りに出た。
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