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敷石はすり減ってでこぼこしているが行政は直そうとしないし、住民は誰も文句を言わない。それがその街が刻んだ歴史であり、住民の愛とプライドの証だからだ。狭い通りを車がとばす必要もない。通りの両側に並ぶ建物は、ピンク、コバルトブルー、ミルキーホワイトといった、パステルカラーに彩られていて、見る者の気持ちを明るくしてくれた。時刻が早く、開いている商店はない。
アテナは、石畳のくぼみに足をとられそうになるマリアの小さな手を握り、東に向かって歩いた。両親の家は3ブロック先にある。
「オーイ!」
聞こえたのは小さなパブを経営している父親の声だった。孫を待ちかねて、外に出てきたものらしい。ふたつ向こうの十字路の角、ミント色の肉屋の前で手を振っていた。彼のパブはその隣にある。
「おじいちゃん!」
彼女の息が白く凍った。アテナの手を振りほどき、転げるように駆けていく。そんな姿にアテナの顔もほころんだ。
「転ぶわよ!」
後ろから声をかけても彼女の耳には届かない。もう、ひとつ先の十字路にいた。
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