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「お父さん、頼んだわよ!」
アテナは父親に手を振った。
「任せておけ。でっかいロブスターを5匹、買って来てくれ!」
「了解!」
そう応じ、父親がマリアを抱き上げたのを見てから背中を向けた。
1歩、足を進めた時だった。――グォォォ……、と遠くからジェット機が近づくような音がした。民間機の航路はなく、街の上を飛行機が飛ぶことはない。飛ぶとしたら軍隊のものだった。
隣国のイワン大統領の憎々しい顔が脳裏を過った。フチン共和国は地下資源が豊かで、その富を利用して強大な軍事国家となっていた。その軍事力は、ユウケイ共和国の10倍とも20倍ともいわれる。軍事力が公正に比較できないのは、核兵器の有無の差があるからだ。核兵器を持てば、小さな国でも大国に大きなダメージを与えることができる。
過去数十年、世界の人々は核兵器の削減、廃絶を訴えているが、核保有国は増えるばかりだ。それもこれも、核抑止力という神話のためだ。それを使うことで、小さな国でも世界を終わらせることが可能だ、というのは決して神話ではない。それを使えば世界は終わる。
世界が平和な今、軍事力にどれだけ意味があるのか、とアテナは思うのだが、彼の国の戦闘機がユウケイ民主国の領空を犯すことが珍しくないのが現実だった。それを政府が抗議しても、彼の国は知らんふり。まともに聞いているとは思えない。そんな態度が取れるのは、核兵器を保有しているからだ。
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