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空の国境を犯し、イワン大統領は何を望んでいるのだろう?……考えながら2歩進み、青い空に目を向ける。ジェット機の姿はなかった。
「まったく、うるさいわね」
飛翔する見えない物体へ苦情をぶつける。
――ヅォーン――
遠いレーダー基地の辺りで爆発音がした。
「エッ?」
音の方角に顔を向けた刹那、地面が揺れた。
――ドォーン――
間近な場所で爆裂音が鳴った。同時に爆風と砂埃がアテナを襲った。彼女は、ピンク色のクレープ店の前に弾き飛ばされて地面に倒れた。
――ヅザザザザ……。身体の上に大量の板切れやガラス片といった瓦礫が降り注ぐ。一瞬、意識が遠のいた。気絶したわけではない。自分の身に起きたことが理解できず、思考が止まっていた。肉体の痛みも感じない。
身体が動いたのは、何か危険な事態に巻き込まれているのだと気づいてからだった。そうして初めて、身体のあちらこちらに痛みを感じた。擦り傷、打撲傷? 判然としないが、痛むことだけはわかった。
頭を上げると、目の前の壁に肉屋の看板が突き刺さっていて驚いた。クレープ店のピンク色の壁は、舞い散った埃で灰色に変わっていた。見れば、自分の手も衣類も灰色だった。顔も同じなのだろうと思った。
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