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消防隊員や商店街の住人の懸命の作業があった。そうしてボロボロになったマリアのリュックが見つかった。キティーちゃんの顔が裂け目からのぞいていた。その顔は無表情に何かを訴えていた。
マリアと父の見るに堪えないひしゃげた遺体……、それが遺体といえるものかどうかは別として、人々の協力を得て、それは昼頃に見つかった。
アテナを襲った悲劇はそれだけではなかった。肉屋同様、父親のパブも吹き飛んでいて、その残骸の中から母親の遺体が発見された。
どうしてこんなことに……。アテナの奥歯がギリギリ鳴った。悲しみと苦しみで涙がともらない。
「まさか、本当に攻撃してくるとはなぁ」「卑怯な連中だ」「誤爆だ」
手助けしてくれた街の人々が口々に言った。
上空を次々とミサイルが飛んでいく。それらは、確実にユウケイ軍の施設に向かっていた。
「運が悪かったんだ」
クレープ屋の主が慰める。
「大統領が言った通り、戦争が始まったんだ」
金物屋の女主人が言った。
未来に通じるあたりまえの日常が、手のひらからサラサラと零れ落ちたような気がした。涙が枯れ、隣国に対する敵意と怒りが胸を焼いた。
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