アテナ

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 その夜、街はずれの教会に10を超える棺桶が並んだ。その内の4つがアテナの家族で、4つが肉屋の家族だった。駆けつけたアテナの夫が顔を怒らし、国防軍に志願すると叫んで飛び出して行った。  棺桶を前にしていると、魂が燃え尽きたのか、いつの間にか恨みと怒りは消えていた。代わりに恐怖が顔を出した。イワン大統領は、感情のある人間なのだろうか?  ふと、父の記憶がよみがえった。噂話や陰口を嫌う彼が、イワン大統領は恐ろしい人だと話していたのだ。彼は政敵を毒殺し、ジャーナリストを撃ち殺す。反対する者なら、親族さえも……、と。それはまるで彼のことを直に知っているような口ぶりだった。その時、詳しく聞かなかったことが後悔された。  教会は、商店街の住人と死者の親族で埋まった。神父が祈りをささげる間も、上空を飛ぶミサイルや戦闘機のエンジン音が絶えることはなかった。  アテナは身寄りのない肉屋の家族の分まで祈った。すると、イワン大統領に対する恐怖が消えた。事態が好転したのではない。宇宙に放り出されたような、頼りない気持ちになっていた。
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