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自宅に戻り、ベッドに横になった。身体は鉛のように重いのに、寝付くことができなかった。
キティーちゃんの人形を抱いて娘のことを思い、これからどうやって生きて行こうか、と考えた。それを、上空を飛ぶミサイルの音が遮った。その頃には街に落ちたのもジェット機ではなくミサイルだとわかっていた。超音速で近づくそれに、爆発寸前まで気づけなかったのだ。
「これから何を頼りに生きて行けばいいのだろう……」夫は娘を失ったために正気を失い飛び出して行った。彼が戻るとすれば、戦いが終わった時だけれど……。国防軍の10倍、20倍ともいわれる敵を退けることなどできるのだろうか?……そうすると誓ったドミトリー大統領の顔を思い出した。
「彼はダメだ……」
就任当初、彼は経済を立て直すと言ったが、国の経済は依然低調なままで、国民の暮らしは良くなっていなかった。政治腐敗をなくすとも言ったが、汚職にまみれた大臣を切り捨てたのも僅か半年前のこと。それまで多くの政治家が、自国よりフチン共和国のイワン大統領におもねる行動をとっていたではないか。だから、舐められ、攻め込まれることになったのではないか……。
鬱々と考え、時折まどろんだ。そうして陽が上った時アテナは、家族の遺体を神父に委ねて首都セントバーグに向かった。
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