ああ神様、こんな卒業はやめてください!

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 同じ“イギリス”のはずなのに、昔からイングランドとスコットランドは非常に仲が悪い(※というか、イングランドのリーダーを“イギリス”って書類に書こうとしたらスコットランドのリーダーさんからめっちゃクレームが来たんで、仕方なく表記を全部イングランドにしたという経緯があります)。サッカーの試合でイングランドとフランスが戦ったら、スコットランド人の大半がイングランドを応援したというのは有名な話である。  何百年も戦争しまくったフランスより仲が悪いってどんだけなんだ、と日本のリーダーは突っ込みたい。 「そもそも、“彼”が何でご機嫌斜めになっちゃったのか誰も訊いてないのも問題じゃない?」  ロシアのリーダーが、至極真っ当なことを言う。 「はっきり言って、これが彼の気まぐれであった場合、ただ宥めたところで意味がないような気がするんだけど」 「確かに」 「確かに」 「……機嫌を損ねる心当たりがちょっと多すぎるしね」 「それな」 「それな」  全員、項垂れるしかない。彼を我儘いっぱいのキャラクターに育ててしまったのは自分達だという意識が、誰も彼も多かれ少なかれあるがゆえに。  元々、自分達人類と彼は、運命共同体と言っても過言ではない仲だった。共に手を取り合い、世界を発展させ、より良い未来を築いていこうと話し合ったはずなのである。太古の人々は、今よりももっと彼と話ができる人間が多かったのだそうだ。日本人も、かつては陰陽師だなんてものもいたくらいだし、人あらざるものと自由に意思の疎通が図れる人間が少なくなかったはずなのである。  それは、魔法大国だなんて言われるイングランドやルーマニアなんかも同じ。日本に多くの不思議文化を伝えた仙人の国である中国や、聖なる都を持つイタリアなんかもそうだろう。  ところが、時代と共に人々は“彼”の声を聴くことよりも、自分達の利益を優先し始めた。環境を破壊し、宗教や資源を守るという名目で戦争を起こし、人もそれ以外の生き物も大量に殺戮して回り。経済の発展と、自国の富を優先し続けた結果、たくさんの血が流れることとなった。  それは人類を愛し、平和を愛する彼の心を痛く傷つけたことだろう。  西暦2280年を過ぎた今の世の中でさえ、世界から戦争が完全に消えることはない。貧富の差も、路地裏で野垂れ死ぬ人々も、いやいや売春しなければならない幼い子ども達もいなくなることがない。  そのどれかが、あるいは全てが優しく純粋な彼の機嫌を損ねるに充分なものだった。人類は己の行いを反省し、きちんと彼に謝らなければならないのだろう。  問題は。じゃあ、戦争や環境破壊をやめたり、貧富の差や人種差別を一瞬にしてゼロにすることが今すぐできるかと言えば――ぶっちゃけ“無理”だとしか言いようがないわけで。  そんな簡単にナシにできるなら、正直誰も苦労していないわけで。
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