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お嬢様、怒る
「却下ですわ!」
透和は生まれて初めて自分の父親に抗議した。
「透和、そんなこと言わずに……」
透和はピシリと背筋を伸ばして父親に物申す。
「もういい加減にしてくださいませ、お父様。せっかく今までの自分を変えるためにと決めた高校ですのに、そこでも黒服の、それも私よりも十も二十も年上のボディーガードが常に一緒では、せっかくの高校生活がダ・イ・ナ・シですわ」
透和の父親は大企業月崎コーポレーションの社長である。
透和は中学生の頃まで有名なお嬢様学校に通っていたが、父親が過保護なためそれまで自分の思ったような行動がなかなかできなかったこともあり、高校は自分で庶民の学校に通うことに決めたのだ。
「しかし庶民の高校なんて、どんな不届き者がおるかもわからん。私は心配で心配で……」
透和の父は昔から極度の心配性なのだ。透和の母からは、「心配性親バカ社長」との不名誉なあだ名が付けられている。
もちろん透和は父には言えない。
「お父様ったら、庶民の高校だからと不届き者の集まりだなんて、偏見が過ぎますわよ。それに、そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわ。遊乃さんと千景さんも同じ高校ですもの」
遊乃と千景というのは透和の幼馴染である。二人とも庶民であるが、昔ちょっとした困り事が透和の身に起こったときに助けてもらったことがきっかけで仲良くなったのだ。
「あ、ああ。まあ、あの二人が一緒なら大丈夫か。いや、しかしなあ……」
まだ渋る透和父。透和のことだとなかなかうんと頷かない頑固な父である。
「もうお父様ったら。いいですわ。そんなにボディーガードをお付けになりたいのでしたら、私が自分で探してきますわよ」
「ええ! 自分で探すだって!?」
「ええ、私のボディーガードは私が自分で見つけてみせますわ。お父様の選んでくださるボディーガードの方ってどの方もお強いし素敵な方だとは思いますけど……。とにかく皆さん年上過ぎますの。話が合わなくて退屈なんですもの。同じボディーガードでしたら、年が近い方が良いですわ」
「いや、いくら何でも自分で探すというのは……」
「もう決めました! 大丈夫です。お父様が安心して任せられるようなボディーガード、私絶対に絶対に見つけてみせますわ!」
そうして透和のちょっと刺激的で愉快な高校生活は始まろうとしていた。
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