深掘りしすぎるお嬢様

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深掘りしすぎるお嬢様

「って言っても、まだ全然見つからないわね」 「そうですの。ボディーガード探しにこんなに苦戦するなんて」  千景がやれやれといった様子で言うと、透和は机に突っ伏した。透和は自分の見立てが甘かったことを今更ながら痛感した。 「仕方ないよ。そもそもお嬢様が自分でボディーガード探そうなんて、無謀すぎるっていうかー」 「確かにねえ」  二人の容赦ない一言に、透和のハートはズタズタである。しかしここで諦めるわけがないのも透和なのだ。 「でも私、諦めませんわよ」  千景と遊乃はまたやれやれと首を振った。だってまだ二週間しか経っていないのだ。二人にしてみれば、もう高校に入ってから二週間も経ってるとのことらしいが、透和にとっては始めたばかり。そう簡単に諦めるわけにはいかない。  ふと遊乃が思い出したように跳び跳ねる。ツインテールがピョコピョコ動く。 「ね、ね、そういえばさ。明日転校生が来るらしいよ!」 「へえ、入学してまだ間もないのにね」 「まあ色々事情あるみたいな話をちらっと聞いたんだ。で、その転校生が何と」  透和は「転校生」という言葉に反応した。 「転校生ですか?」 「そうそう」 「あのどこかよその街に引っ越す時に学校も変えるという?」 「うん、その転校生。でね」 「あのクラスメイトから一時期注目を浴びやすいという転校生ですか?」 「うん、だからその転校生。でね」 「あの漫画だと恋愛に発展したりライバル登場で主人公のもやもやが始まったりする要素がいっぱい詰まっているという転校生ですか?」 「それは漫画によるんじゃない? でね」 「あの」 「ちょっとちょっと、ストップ!」  透和がそれ以上言おうとしたら、千景が止める。  透和は興奮すると周りが見えなくなることがよくある。 「長い。転校生のくだり長すぎ。深掘りしすぎでしょ。そのくだりだけで、二九〇文字使ってるわよ。話続かないってば」 「あら私としたことが、申し訳ありません、つい。というか二九〇文字って何の話ですの?」 「気にしないで。こっちの話」  触れてはいけないことに触れた気がした透和だったが、深くは考えないようにした。  遊乃が待ちきれないように続けた。 「ねえ、もういい? 続き喋りたいんだけど」 「ああ、ごめんごめん。それでその転校生がどうしたのよ?」 「それがもうすっごいイケメンなんだって!」  興奮したように遊乃が言う。またツインテールがピョコピョコ跳ねる。何だそんなことか、と言いたげな千景。 「遊乃ったら、まーたイケメン? でも透和に言っても仕方ないわよ。この子そういうのよくわかんないみたいだし」  呆れ顔で千景が透和の頭をつつく。  千景に言わせると遊乃はいわゆる「面食い」らしい。  透和は初めてそれを聞いたときに、お顔を食べるなんて恐ろしいことを、と思ったがどうやら整った顔立ちを好む傾向にある人のことをそう呼ぶということを知って安心したのはつい二ヶ月前のことである。
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