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「どうぞ、乗って」 「すみません、お邪魔します…」 会社の地下駐車場に停めてある、早宮さんの所有車であるホンダの助手席に私は緊張しながら乗り込んだ。 "わぁ、いい香りがする…" 入った途端、ムスクのいい香りがして、私は思わず早宮さんに聞いた。 「この香り、ムスクですが?」 隣の運転席に座った早宮さんは私の問いに笑って答えた。 「よく分かったね。自分のお気に入りの香りなんだけど、大丈夫?」 「全然大丈夫です、ムスクの香りって落ち着きますし、大人の香りって感じがしますよね」 私の言葉を聞いて、早宮さんはふっと笑った。 「大人、か…。僕ももう気づけばアラサー間近だな…」 悲しそうな顔で言うものだから、私は焦った。 「い、いや、全然そんな風には見えないですよ…、むしろ、年を重ねる度に若返っている気がします」 それは本心だった。生き生きと、仕事をしている早宮さんを、羨ましいと思っている自分がいた。 オロオロしている私を見て、早宮さんは、 「ありがとう」と言った。 「さ、行こうか、悪いけど、道案内をしてくれると助かるな」 「もちろんです、よろしくお願いします」 早宮さんが、車のエンジンを入れ、アクセルを踏むと、ゆっくりと車が動き出した。 こうして、私と早宮さんの、二人きりの夜のドライブが始まった―。
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